追い詰められ…自白、20年信じた「無実」 再審維持 - 朝日新聞(2015年10月24日)

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放火して長女(当時11)を殺害したとされた母と内縁の夫の再審請求に対し、大阪高裁は23日、その訴えを認める決定を出した。同じ結論を導いた地裁からさらに踏み込んだ判断を示したが、検察側は争う構えを崩さない。逮捕・起訴から20年。2人の「無実」を信じ、帰りを待つ家族らの間には、喜びといらだちが交錯した。
「長かったですが、信じていたので、うれしかったです」。1995年9月に逮捕された青木恵子元被告(51)=和歌山刑務所で服役中=の長男は大阪市内で開いた記者会見で、29歳になる前日に出た高裁決定をうれしそうに受け止めた。
青木元被告は決定を受けて面会した弁護士に喜びの表情を見せた一方、刑の執行停止が「26日午後2時から」とされたことには残念そうなそぶりだったとされる。釈放が長男の誕生日に間に合わなかったためとみられ、弁護士に「一緒に誕生パーティーできなくてごめんね、と伝えてほしい」と求めていた。
青木元被告が逮捕された時、長男は8歳。優しかったという母親が三つ年上の姉にあたる長女(当時11)を殺害した疑いで警察に向かう姿をわけも分からず見送った。それ以来、青木元被告とのやり取りは手紙や面会だけで、寂しく、つらい日々を重ねた。
長男は「事件のことはあまり考えないように」と意識しつつ、無実を信じ続けた。そうした歳月について「僕が信じないと、お母さんもつらいでしょう」と振り返る。釈放されたら何と声をかけるか、と会見で聞かれると、「おかえり、ですかね」。一緒に姉の墓参りに行き、「やっとお母さんと来られたよ」と報告するつもりだ。
青木元被告と内縁の夫の朴龍晧(たつひろ)元被告(49)=大分刑務所で服役中=の無実を信じ、刑の執行停止によって釈放される時を待つ長男ら家族や支援者の思い。2人の心境についても弁護団は「20年という長期、2人は一日千秋の思いで待っていた」と明かす。しかし、検察側は高裁に異議を申し立て、再審開始を認めた決定についても争う構えを崩していない。
検察側は今後の具体的な方針を明らかにしていないが、検察幹部は「全くの想定外ではない」と指摘。期限の28日までに特別抗告の理由となる憲法違反や判例違反にあたるかを慎重に検討するとしている。
検察が刑の執行停止に対して異議を申し立てたことを会見後に知った乗井(のりい)弥生弁護士は「無罪になる可能性が高い人をさらに拘束する正義に反する行為。非常に残念だ」と批判した。
日本弁護士連合会の村越進会長は「高裁は事故の可能性を具体的に指摘し、自白の信用性を否定し、自白を採る過程の問題点まで指摘した。検察官には決定を尊重し、速やかに再審公判に移行させるよう求める」との声明を出した。
■「帰られへんぞ」失意で自白
「当分帰られへんぞ」
朴元被告は一審の公判段階で、大阪府警の捜査員から任意同行後にそんな言葉を告げられたと訴えた。
任意の取り調べでは「車からガソリンを抜いてまき、火をつけたとの鑑定がある」「火を付けたのを(青木元被告の)長男が見たと言っている」と事実と異なる説明をされ、焼死した長女の写真を見せられて「悪いと思わんのか」と迫られたという。
さらに、任意段階では否認だった青木元被告について「もう全部しゃべってんぞ」と伝えられて気力を失い、小声で「やりました」と自白。そして逮捕後、「車庫にガソリン7・3リットルをまいてライターで火を付けた」とする供述調書に署名をしたという。