(筆洗)ロシアの作家ツルゲーネフは百六十年前に書いた小説『ルーヂン』の主人公に - 東京新聞(2015年10月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015102202000138.html

ロシアの作家ツルゲーネフは百六十年前に書いた小説『ルーヂン』の主人公に、こんな言葉を吐かせている。
「誤解されたままで終わる人は、自ら求めるものを当人自身が分かっていないか、他人から理解されるに値しないかのどちらかなのです」
ある重要な文を読んでいただこう。<教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については…組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めること>。これは、今年六月に文部科学相が全国の国立大学に出した「通知」である。
この通知は、論議を呼んだ。「文系軽視」との批判が巻き起こって、日本学術会議の幹事会が<目には見えにくくても、長期的な視野に立って知を継承し、多様性を支え、創造性の基盤を養う…(大学の)基本的な役割を失うことになりかねない>との声明を出すにいたった。
しかし文科省によれば、巻き起こった批判や懸念は、「誤解」によるものなのだという。問題の通知は、決して人文社会科学系学部の「廃止」を求めてはいないというのだ。だが、いくら通知を読み返しても、「誤解」は解けそうもない。
ルーヂンの警句に従えば、文科省のお役人は「大学改革の目標を当人自身が分かっていないか、国民から理解されるに値しないかのどちらか」だろう。まず改めるべきは、大学より文科省ではないのか。