(私説・論説室から)旅人「フジタ」を描く - 東京新聞(2015年10月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015102102000141.html

戦争とは芸術家さえ、それに加担させるものだ。世界的に著名な画家の藤田嗣治(一八八六〜一九六八年)も第二次大戦中は、日本で戦意高揚のため戦争画を描いている。
映画監督・小栗康平さんの最新作「FOUJITA」は、タイトルどおり藤田の人生を扱っている。試写会で見たが、面白いのは二時間余りの上映時間を真っ二つに切り分けていることだ。ちょうど半分は二〇年代のパリが舞台だ。残りの半分は四三年から敗戦までの日本が舞台と、その対比を狙ったかのように映像を並べた。
狂乱のパリで「乳白色の肌」の裸婦を描き、センセーションを巻き起こした。絵は売れに売れた。ピカソやモディリアニらとも交友し、西洋文化の先端をゆく大都会で、その才能を発揮する日々…。
戦時中の日本では「アッツ島玉砕」など、作風が全く異なる絵画を発表する。疎開先の農村では自然に包まれて暮らしたことも何か暗示的だ。異文化間の旅人なのだろう。
小栗さんは「戦争を含め、近代とは何かを問うことになった」と話す。「異なる文化の中で、ねじれや矛盾、文化の衝突があったはずです。一つの命が生き抜いていく姿を自分なりに描いてみようと思った」とも。
エピソードを連ねただけの、ありきたりな伝記映画とは異なる。ロードショーは十一月十四日から。お楽しみに。 (桐山桂一)