もう一度読みたい:<平和と民主主義>団藤重光さん「同調する弱虫じゃ民主主義はダメになる」 - 毎日新聞(2015年10月21日)

http://mainichi.jp/feature/news/20151020org00m040017000c.html

今は亡き著名人のインタビューを再録する「もう一度読みたい<平和と民主主義>」第8回は、最高裁判事・東大名誉教授を務めた刑法学者の団藤重光さん。ある事件で下した死刑判決を批判する傍聴席の声に、自ら考えて主体的に行動することの大切さを痛感。その体験は、後の死刑廃止の信念につながった。今年9月に成立した安全保障関連法の議論では、民主主義や憲法のあり方が問われた。「民主主義ってものは、よっぽど覚悟がいるわけだから。主体性を持て、そう言いたいね」と語った団藤さん。存命なら今の日本をどう見ただろうか。

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「自分が死刑宣告をする立場になって初めて主体的に考えることができた。自分は愚かだった、浅はかだった」
最高学府での40年にわたる学究生活。それでもなお見えなかったものが当事者になって初めて見えた。
「人間的な感情を持てば、人が人を殺すということは絶対におかしい。殺人犯が人を殺すのは個人のやることだが、死刑は国が人を制度として殺すのだから普通の殺人より悪い。死刑は当然廃止すべきです。ヒューマニズムのない国、文化は滅びる。滅びたくなければヒューマニズムを取り込まなければならない。そう書いたら、ある評論家が『そんなこと(傍聴席の一声)で考えを変えるなんて、よっぽどいくじなしだ』と言った。僕はその人の神経を疑うね」
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 ◇その後の団藤さん…今も響く「自分の足で歩きなさい」
団藤重光さんは2012年6月25日、老衰のため亡くなった。98歳だった。
「『巨星落つ』の感は深い」。門下生の松尾浩也・東京大名誉教授は当時、そのように吐露している。東京都内の自宅で取材に改めて応じ、「豊かな人間性を持った、大きな器の人でした」と偉大な師を振り返ってくれた。
いわゆる「団藤刑事訴訟法学」は戦後の刑訴法改正の際の理論的支柱となり新法の解釈運用の基盤となったという。刑訴法を学ぶ法学部生にとって、その著作の数々は文字通りのバイブルであり続けている。代表作の「死刑廃止論」(有斐閣)には91年の発刊以降も筆が加え続けられ、00年には6版を重ねた。
松尾さんによると、私生活においても団藤さんならではの「こだわり」があった。趣味のカクテル作りや卓球競技(軽井沢の別荘に道具を置いていた)で、英語や仏語で書かれた本場の解説書を愛用。腕前は別にして「『知識は国際レベル』とおっしゃっていました」。すぐに礼状などを書けるよう、書斎の手元には封筒や便箋を山積みにするなどの細やかさも印象的だったという。
集団的自衛権をめぐる憲法の解釈問題で、法学界はかつてない渦に巻き込まれている。「自分で道を探しなさい。自分の足で歩きなさい」−−。団藤さんのその口癖が、今に響いてくる。【高橋昌紀】