安保関連法案 成立に強く反対する - 毎日新聞(2015年9月16日)

 
http://mainichi.jp/opinion/news/20150916k0000m070166000c.html
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安倍晋三首相は予言者になったつもりだろうか。
安全保障関連法案について「成立し、時が経てゆく中において間違いなく理解は広がっていく」と14日の参院特別委員会で述べた。
提起された数々の異論に適切な反証ができていないのに、「いずれは分かる」と根拠なく言うのは国民を見くびる慢心の表れだ。
法案への反発は、一時の感情ではない。平和国家としての積み重ねが崩れ、常識がゆがめられることへの危機感に基づいている。
日本の安全保障政策は、憲法9条日米安保条約との強い緊張関係の下で成り立ってきた。無謀な戦争への反省と、現実の国防とを両立させるために生み出された、戦後日本の太い背骨だ。
しかし、安保法案が成立すれば9条の持っていた拘束力は極端に緩められ、政策の重心は日米安保の側に大きく傾く。
戦後70年。まっとうなプロセスを経た政策転換ならば議論の余地はある。ただし、今回は違う。
4カ月近い安保国会で最も印象に残るのは「法的安定性は関係ない」という礒崎(いそざき)陽輔首相補佐官の発言だ。安保政策の実務者である礒崎氏の言葉こそ、法案の設計思想を如実に示している。
冷戦型の思考で軍事上の必要性を最優先させる。40年以上維持されてきた集団的自衛権憲法解釈を「環境が変わった」のひと言で正反対にする。最高裁長官の経験者から論理の粗雑さを批判されても「今や一私人」と無視する。
中国の強引な海洋進出に対して「法の支配」を訴えてきた安倍首相だが、国内の法秩序を軽視しているのは明らかだ。行政権ののりを超えた越権行為である。
法案は質のみならず量の面でも欠陥がある。「切れ目のない対応」を旗印に自衛隊の活動を極大化していることだ。
安保法案には、地球規模での後方支援や外国軍への弾薬の提供、国会の承認なしに米軍を守る武器等防護などが盛り込まれている。その一つひとつが戦後安保政策の重大な変更であるのに、一括して提出されたために、国会の審議では手つかず同然のものもある。
国家の要諦が危機管理である以上、起こり得るリスクへの備えは必要だ。ただし、内容の決定にあたっては法秩序の安定や国力、国民の理解度などの要素に見合った水準でなければならない。
安倍内閣の安保法案は、いずれの条件もクリアできていない。にもかかわらず、生煮えのままで採決を迎えようとしている。
政治は国の針路を選び取る営みだが、政治指導者は同時に国民を統合していく責任を負う。国内に生じている亀裂を修復する展望を持ち合わせずに、時間が解決するのを夢想するのは許されない。
日本は今、戦後史の大きな分岐点にさしかかっている。自衛隊の創設や安保条約の改定時に匹敵するかそれ以上だ。日本を傷つける分岐になることを強く憂う。