安保法案参院審議 「民の声」に耳を傾けよ - 東京新聞(2015年9月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015091602000140.html
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安全保障関連法案に反対する国民の声に、政府・与党はなぜ耳を傾けようとしないのか。憲法違反と指摘される法案だ。このまま成立させてはならない。
安保法案を審議する参院特別委員会。きのう国会で中央公聴会が開かれた。きょう横浜市で地方公聴会が開かれる。
与党側は一連の公聴会終了後、委員会で採決に踏み切り、秋の大型連休前の十八日までに参院本会議で可決・成立させる方針だ。
違憲立法」が強行され、戦後日本が歩んできた「平和国家」が一転、「戦争できる国家」に変質するか否かの分水嶺(ぶんすいれい)である。
◆公述人に多数の応募
公聴会は、重要法案の審議に当たって利害関係者や学識経験者らから幅広く意見を聞くことを目的としながらも、採決に向けた条件整備と位置づけられ、軽視されてきたのが実態だ。
与党側は公聴会直後に採決に踏み切るなど、その後の審議に反映されることはほとんどなく、これまでも形骸化が指摘されてきた。
しかし、今回の中央公聴会ほど国民の注目を集めたことはなかったのではないか。安保法案の週内成立を強行しようとする政府・与党に対して、国権の最高機関である国会の場で「市民」が意見を表明する最後の場になるからだ。
今回の中央公聴会では、意見表明する「公述人」の公募に、過去十年で最も多い九十五人が応募した。しかも、全員が法案に反対の立場だったという。違憲立法に対する国民の危機感の表れだろう。
中央公聴会には、与党推薦の二人、野党推薦の四人の計六人が公述人として出席した。
中でも注目は、学生団体「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)」中心メンバーの明治学院大四年、奥田愛基さんである。
◆訴え、路上から国会へ
応募した九十五人から民主党が推薦した奥田さんは「安保法制に関して現在の国会は、まともな議論をしているとは言いがたく、あまりにも説明不足だ。私たちはこの法案に到底納得することができない」と、廃案を訴えた。
いつもは国会前の路上で安保法案反対を訴えている奥田さんである。より国民の立場に近い、素朴な疑問、主張と受け止めたい。
奥田さんの意見に、特に与党議員はどう耳を傾けたのか。「政治の素人」の意見として一顧だにせず、切り捨てていいわけがない。
自民、公明両党による連立与党は今、国民各層の素朴な疑問に答えようとする誠実さを欠き、その怒りを正面から受け止めようとしない傲慢(ごうまん)さに満ちている。
確かに衆院選は政権選択の選挙であり、与党が過半数議席を得た以上、安倍晋三首相に政権を託したことは事実ではある。
ただ、それは安倍政権への「白紙委任」を意味しない。特に安保法案は、首相が「アベノミクス解散」と位置付けた昨年十二月の衆院選で、自民党公約集の後ろの方でごくわずか触れたにすぎない。
ましてや憲法の規範性を侵し、法的安定性を損ねてまで、政府の裁量を認めたものであるわけがない。安保法案の最大の問題点は、合憲性に対する疑義である。
安倍内閣は歴代内閣が堅持してきた憲法解釈を変更し、違憲とされてきた「集団的自衛権の行使」を一転、合憲としてしまった。その集団的自衛権を行使するための法案が、今回の安保法案である。
多くの憲法学者や幅広い分野の専門家をはじめ、「憲法の番人」とされる最高裁長官経験者や内閣法制局元長官まで、安保法案を憲法違反と断じる異常さである。
共同通信社が八月十四、十五両日に実施した全国電世論調査によると、安保法案に「反対」は58・2%、法案が「憲法違反だと思う」は55・1%だった。報道各社の世論調査も同様の傾向だ。
法案反対デモは収束するどころか各地に広がり、規模も大きくなるばかりだ。法案成立に国民の合意が形成されたとはとても言えない状況で、政府・与党が数の力で法案成立を強行すれば、国民と政治との分断は決定的になる。
◆採決装置でいいのか
今、全国民の代表である国会議員は何をすべきか、自問してほしい。国民多数の反対を顧みず、政府が進める安保法案を唯々諾々と進めるだけなら、もはや「国権の最高機関」の名に値せず、単なる「採決装置」に堕す。
戦後日本は、専守防衛に徹する平和国家の道を歩み、経済的繁栄を成し遂げた。非軍事の国際貢献に徹し、国際社会の尊敬を得てきた。その「国のかたち」を根本から変えてしまいかねない法案である。採決を強行せず、廃案にすべきではないか。国会議員一人ひとりの良識が問われている。