余録:「政治という仕事は、情熱と判断力の両方を使い… - 毎日新聞(2015年8月21日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150821k0000m070178000c.html
http://megalodon.jp/2015-0821-0921-36/mainichi.jp/opinion/news/20150821k0000m070178000c.html

「政治という仕事は、情熱と判断力の両方を使いながら、堅い板に力をこめて、ゆっくりと穴を開けていくような仕事です」。ドイツの社会学者、M・ウェーバーが1919年に行った講演「職業としての政治」からよく引用される言葉である。
ちなみに職業はドイツ語では「ベルーフ」、もともと神に召されて与えられる使命を意味した。人それぞれの職業が神の召命(しょうめい)であるというのは西欧の宗教改革から生じたプロテスタントの考え方で、ウェーバーはその信仰が資本主義を生み出したとの所説で知られる。
英語で呼び声を表す「コーリング」に職業の意味があるのも同じである。人はその呼び声に応じて天職を得る。だが今日の政治を業とする人々の中には、一体どんな呼び声を聞いたのだろうと首をかしげたくなる方もいる。
金銭トラブルを週刊文春に報じられた自民党の武藤貴也(むとう・たかや)衆院議員が離党した。暴かれたのは「国会議員枠で買える未公開株」なる話が登場する怪しげなもめ事で、立ち入った釈明もないままさっさと離党届が提出され、党もすぐさま受理するという手際の良さである。
何しろ武藤議員といえば、安保関連法案に反対する学生デモを「極端な利己的考え」と批判、憲法の人権尊重が「滅私奉公(めっしほうこう)」を破壊したと嘆いていた当人である。「どっちが利己的か」と突っ込まれ、近年の主張と矛盾する過去の行状(ぎょうじょう)が取りざたされたのも仕方ない。
議員は自民党の候補者公募の呼び声に応えて政治家となったと聞く。はてその情熱と判断力はどう判定されたのか。お手軽コーリングが招いた政治の劣化の兆候(ちょうこう)には目に余るものがある昨今だ。