新学習指導要領 近現代史をどう教える - 毎日新聞(2015年8月8日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150808k0000m070140000c.html
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文部科学省が示した次期学習指導要領の骨格案に、高校の新必修科目として「歴史総合」と「公共」(いずれも仮称)が登場する。
「歴史総合」は日本史と世界史を融合し近現代史を中心に学ぶ。「公共」は、選挙権年齢の18歳への引き下げに伴う主権者教育が眼目だ。
次期指導要領(高校は2022年度実施見通し)による具体的な学習内容は中央教育審議会論議し、16年度内に答申する。「歴史総合」も「公共」も内容や取り組みによっては従来の高校教育の可能性を大きく広げるかもしれない。逆にお仕着せの枠から出られず、現実の課題を避けるのではという気がかりもある。
文科省によると、高校の歴史教育は暗記中心の傾向があり、調べ学習なども少ない。近現代史は授業が期末で未消化に終わったり、学説的に確定していないテーマなどを避けたりする面もあって、生徒の知識の度合いも相対的に低いという。
現在に至る歴史的背景や経緯の基礎知識は、グローバル化時代に不可欠だ。このため骨格案では、「歴史総合」は近現代の世界と日本の関わりから今日の課題につながるような歴史的転換点を学び、資料調べや分析、討論を重視するとする。
これまで近現代史の融合授業を実践した先生によると、授業は知識伝授ではなく、まず生徒が自ら考え、多面的に見ることを促す。戦争のテーマでは双方の主張を踏まえる。新聞を読み、話題も広げる。
容易ではない。教える側の人材養成、研修の充実も必要だが、そうした実践を重ねてこそ文科省が双方向の主体的学習として称揚する「アクティブ・ラーニング」も育ちうる。
一方、説が未定で争いもあるテーマを一律に扱わず、また常に「政府統一見解」に準拠するなど型にはまっては、授業は意義を失う。
「公共」は小中学校の「道徳の教科化」とともに自民党が推進し、社会で自立するのに必要な規範意識などを求めた。そして選挙権年齢引き下げで主権者教育の柱になった。
社会保障、財政と納税、消費者教育、選挙など多面にわたる。授業例に討論や模擬投票がある。
だが6月、山口県の高校で安全保障関連法案をめぐり意見発表し、模擬投票した授業は、自民党県議が「政治的中立性」を疑問視、県教育委員会が謝るという事態になった。自民党は教員の政治的中立の逸脱に罰則を科す法改正も検討する。
公教育の政治的中立は必要だが、現実に生起するテーマこそ思考、討論を活気づけ、選択を豊かにする。
柔軟な対応と、多様な教育を実現するため、今後さらに開かれた議論を積み重ねたい。