安保法制考 (5) 許されない自衛隊任せ-東京新聞(2015年4月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015042202000159.html
http://megalodon.jp/2015-0422-0932-16/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015042202000159.html

一連の安全保障法制の制定により、武力行使のハードルは限りなく下がる。今後は共同訓練中の米軍や他国の軍隊であっても自衛隊が防護するというのだ。
防護できる法的根拠について、政府は「自衛官自衛隊の武器を守るため武器使用できる」という自衛隊法第九五条を当てはめる。
この条文は「日本の防衛力を構成する自衛隊の武器を防護する行為」(政府見解)とされる。米軍や他国の軍隊の武器は「米国や他国の防衛力」であって「日本の防衛力」であるはずがない。この時点で相当な無理がある。
さらに九五条は武器使用を自衛官の判断に委ねる規定でもある。例えば、海上自衛隊の現場指揮官は護衛艦を守るための反撃が認められる。今後、この規定を自衛隊との共同訓練や警戒監視の任務につく米軍や他国軍の艦艇防護に当てはめることになる。
自衛隊が他国の艦艇を防護すれば、集団的自衛権の行使とみなされる可能性が高い。攻撃した相手からみれば、自衛隊は敵となり、自衛隊ばかりか日本が攻撃対象になりかねない。現場判断で踏み切る「他国軍の防護」が重大な結果を招くおそれがある。
立場を変えて考える。米軍は自衛隊を守るだろうか。米陸軍発行の「運用法ハンドブック2014」によれば、「唯一大統領または国防長官だけが集団的自衛権の行使を認めることができる」とあり、米軍であっても現場の判断で自衛隊を守ることはできない。
政治が軍事を統制するシビリアンコントロールを採用する国において、政治判断を抜きにした武力行使は許されない。
そもそも「米艦艇の防護」は昨年の与党協議では集団的自衛権に分類されていた。だが、専門家から日本有事であれば個別的自衛権で対処できると反論された。これをかわすためか、艦艇防護を平時の武器使用に移し、現場で判断できる程度の軽い事案にすり替えている。自衛隊への責任転嫁と批判されても仕方ない。
安全保障法制の制定により、自衛隊はどこへでも派遣され、他国軍の防護はもちろん、海外における武力行使まで可能になる。憲法改正を抜きにした「国防軍」の誕生である。その結果、改憲の動きは加速されるだろう。それこそが安倍晋三政権の真の狙いかもしれない。 (半田滋)