]生活保護費訴訟 子どもの育ち妨げるな-東京新聞(2015年4月2日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015040202000147.html
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高校生の娘は生活保護を受けている親に修学旅行費を頼めず、自らアルバイトし賄った。これを自治体は収入とみなし、全額返還を求めた。あまりに酷な行政処分であり、地裁判決は妥当だ。

「使途を検討の対象にせず行われた処分は、慎重さを欠いた」

川崎市の五十代男性が高校生の長女のアルバイト収入を申告しなかったことを理由に、生活保護費返還処分を受けたのは不当として、同市に処分取り消しを求めた訴訟で、横浜地裁判決は原告の主張を認め、処分取り消しを命じた。同市は控訴を断念した。

判決などによると、男性は病気で働けなくなり二〇一〇年春から生活保護を受給。高校二年生だった長女は、この年の秋に予定されている修学旅行費約十万円を、薬局で一年間アルバイトして捻出した。また、残り二十二万円余を大学の受験料に使った。

これについて、川崎市は収入を申告しなかったとして、不正受給とみなし、三十二万円余を全額返還するよう求めた。生活保護法七八条は「不実の申請、不正な手段で保護を受けた場合、その費用を徴収する」と定めており、これに基づくものと同市は主張した。

判決は、ケースワーカーの説明不足で、男性がアルバイト収入の申告義務を十分に理解していなかったなどと判断した。

弁護士らからなる生活保護問題対策全国会議の小久保哲郎事務局長は「厚生労働省生活保護法七八条を適用しろと指導しており、子どものアルバイトが発覚したら不正受給として扱う実務が各地で横行している。判決は、そうした運用に警鐘を鳴らした」と話す。現行制度でも、申告すれば控除も適用されるほか、修学旅行費やクラブ活動費などに充てることができる。だが、自治体やケースワーカーがその仕組みを知らなかったり、受け持つ世帯数が多過ぎて説明が不十分だったりすることがあり、後になって不正受給と認定されるケースが多々あるとされる。

厚労省生活保護費の不正受給は年四万三千件余と発表したが、小久保氏は子どものアルバイト収入の申告義務を知らなかったために不正とされている件数が多数含まれる、と指摘する。

政府の子ども貧困対策大綱は、親から子への「貧困の連鎖」を断ち切ることをうたい、そのために「教育の機会均等を図ることは極めて重要」と強調している。自治体には、特に教育費について、きめ細かな対応を求めたい。