メルケル独首相 語られた二つの反省-東京新聞(2015年3月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015031202000137.html
http://megalodon.jp/2015-0312-1011-18/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015031202000137.html

ドイツのメルケル首相が七年ぶりに来日した。大戦後の廃虚から経済大国となった日独両国。過去と向き合ったドイツを受け入れ、平和を築いた欧州の歩みを、戦後七十年を考える参考としたい。

ドイツは欧州連合(EU)の一員として、近隣諸国との強い信頼関係を築いている。これに対し、日本と中国、韓国との間には不協和音が目立っている。

メルケル首相は来日講演で、近隣諸国との関係について「ナチスの時代があったにもかかわらず、ドイツは国際社会に受け入れてもらえた。過去ときちんと向き合ったからだ」と説明した。

戦争の「過去」をめぐる欧州と東アジアの事情は違う。ドイツはナチスによる侵略と大虐殺の事実を認め、欧州は共通の歴史認識づくりに大きな成果を挙げてきた。これに対し、日中韓の間では歴史認識での隔たりは極めて大きい。しかし、その中で、戦後五十年の村山富市首相談話で表明した「植民地支配と侵略」に対する反省とお詫(わ)びは、日本外交の基盤である歴史認識の根幹となってきた。戦後七十年談話でも、これを曲げることなく明確に表明し、周辺国の理解を得た上で、歴史認識の溝を埋めていきたい。

メルケル首相はまた「独仏の和解はフランスの寛容な振る舞いがなかったら、可能ではなかった」と述べた。「東シナ海南シナ海における海上通商路の安全が海洋領有権をめぐる紛争によって脅かされている」とも発言して中国をけん制、解決のため、二国間対話のほか、東南アジア諸国連合ASEAN)の活用を呼び掛けた。日本の周辺国にも寛容さや自制を促したのは注目される。ASEANの活用はEUに学ぶ点が多い。

ドイツの脱原発政策への転換については「核の平和利用には賛成してきたが、福島の原発事故で考えを変えた。日本という高度な技術水準を持つ国でも事故が起きることを如実に示した。想定外のリスクがあることが分かった」と、事故の衝撃の大きさが引き金となったことをあらためて強調した。

安倍晋三首相は首脳会談後の会見で、原発再稼働を進める方針を重ねて明言した。しかし、最近でも、福島第一原発の汚染水の外海流出が明らかになるなど、メルケル首相が指摘する想定外の「リスク」は何ら解消されていない。ドイツが福島の事故を教訓としたように、日本もドイツの決断の意味を、いま一度しっかりと考えたい。