「妊娠降格」訴訟 働く女性を守らねば-東京新聞(2014年10月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014102402000139.html
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妊娠で降格人事を受けた女性の裁判だった。最高裁男女雇用機会均等法の精神を忠実にくみ取る判断をした。働く女性が安心して出産できる社会が実現できないと、輝きなど生まれない。

この訴訟は広島市の病院勤務の理学療法士が起こした。女性は過去に流産の経験があった。だから、妊娠したとき、身体的な負担が軽い業務への配置転換を望んだ。確かに部署が替わったものの、それまで付いていた「副主任」の肩書がなくなってしまった。

副主任の手当は月額九千五百円あったが、それも失った。上司に抗議したが、「おなかの子のことを一番に考えて」と言われ、そのまま産休と育休をとった。復帰先には既に別の副主任がいて、肩書が戻ることはなかった。だから、この降格人事は不当だとして、女性は賠償を求めたわけだ。

男女雇用均等法はさまざまな不利益な取り扱いを禁止している。妊娠や出産したことを理由にして、解雇することはもちろん許されない。退職の強要や降格、減給も禁止事項だ。不利益となる配置の変更も禁じている。

だが、今回のケースは一審、二審とも女性が敗訴した。「職位の任免は人事権の行使として、使用者の広範な裁量に委ねられている」と、事業主側の裁量権を重くみる論法を使ったのだ。

最高裁は異なった。まず、不利益な取り扱い禁止の規定について、「事業主による措置を禁止する強行規定」と解した。例外は本人が自由な意思で降格を承諾した場合などに限定した。

かみ砕いて言えば、妊娠・出産では特別な事情がない限り、降格人事はできない−、それを確認したといえよう。均等法の精神に忠実な姿勢だ。確かに事業主の裁量が幅を利かせれば、均等法は“空文化”しかねない。

この考え方は女性の労働環境の現状に一石を投ずるだろう。いわゆる「マタニティーハラスメント」が横行する背景があるからだ。全国の都道府県労働局への相談総件数は、ここ数年三千件超というありさまなのだ。

勤め先から不当な仕打ちを受け、つらく悔しい思いをしているに違いない。泣き寝入りしている女性も多いのではないだろうか。

均等法が求めるのは、子どもを産み、育てながら、仕事も続けられる世界である。もっと安心して、育児ができる職場環境づくりこそ求められよう。