(筆洗)一九七四年、ニクソン米大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件…-東京新聞 (2014年10月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2014102302000146.html
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一九七四年、ニクソン米大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件。スクープした二人の記者を描く映画「大統領の陰謀」(七六年)にこんな場面がある。
スクープした新聞社にニクソン政権はかみつく。「あの新聞の編集主幹は政治的に偏向している」。二人は悩む。取材を続けていいのか。相談を受けた編集主幹はいう。「疲れているな。家へ帰れ。風呂に入れ。ゆっくりしろ」。こう続ける。「ただし十五分だ。仕事しろ。大切なのは報道の自由、そして国の未来だ」。圧力なんか関係ない。追え。二人に、これほどの励ましはない。
映画でそう描かれた新聞人が二十一日亡くなった。ベン・ブラッドリーさん。ワシントン・ポストで編集局長、主幹を二十六年務め、同紙の名声を高めた。
スクープの立役者は二人の記者だったが、ブラッドリーさんの勇気と決断がなければ、世に出たかどうか。
うたぐり深くなる職業でもある。部下さえ信用できぬもので、まして二人は新人。情報源は得体(えたい)の知れない「ディープスロート」。この状況で権力者に挑もうというのである。「おまえらを信用するか。信用するのは苦手だが」。映画のせりふだが、器の大きな人だった。
「記者はそれが真実である限り、書いた結果を心配するな。真実はうそほど危険ではない」。ベンの教え。秘密保護法の時代でも正しい。正しいと信じる。



大統領の陰謀」予告編(All the Presidents Men (1976年制作))