ノーベル平和賞 17歳の勇気を支えよう-東京新聞(2014年10月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014101102000145.html
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「世界のすべての子どもにペンと本を」−。ノーベル平和賞に決まったパキスタンの少女マララ・ユスフザイさんの訴えだ。貧しい国の子どもたちが皆、学校に通い勉学に励むよう支援したい。

マララさんは十七歳。ノーベル賞全部門の受賞者の中で史上最年少だ。児童教育の向上を目指す活動が評価された。インドの児童権利擁護活動家カイラシュ・サトヤルティさんとともに選ばれた。

マララさんは十一歳のときからウェブサイトで、イスラム過激派に脅されて学校に行けない女子生徒の様子を伝えた。二〇一二年十月、過激派に頭を撃たれて重体になり、英国に搬送され大手術を受けて奇跡的に回復した。

世界中から届いた義援金と自伝の印税を元に「マララ基金」をつくり、貧しい国々の子どもの就学を支援している。昨年七月、国連で演説し、「私たちの口をふさごうとしたテロリストの試みはついえた」「ペンと本を手に取ろう。教育こそが唯一の解決策だ」と訴えた。世界中の人々がどれほど励まされたことか。

国連の推計では、全世界で小学校に通えない子どもは約一億人、児童労働者は一億六千八百万人いる。読み書きや計算ができないままでは、希望する仕事に就けない。育児でも苦労する。次世代にも深刻な影響がでるのだ。

不幸なことに、教育の権利を奪う極端な思想がむしろ広がりをみせている。イラク、シリア両国の一部を占拠したイスラムスンニ派過激派組織「イスラム国」は女性の教育どころか、外出にまで目を光らせる。ナイジェリア北部のイスラム過激派ボコ・ハラムは四月、中学校を襲撃し、女子生徒二百人以上を拉致した。

マララさんに対する殺害予告は今も続く。滞在先での身辺警備には万全を期してほしい。世界に勇気と非暴力の大切さを教えてくれた十七歳の少女を、今度は私たちが支えなければならない。

同時受賞したサトヤルティさんは、インドの労働搾取から児童たちを救い、更生させる国際活動を三十年以上続け、ガンジーの精神を今に伝えたことが評価された。

二人の受賞者は、ヒンズー教徒のインド人とイスラム教徒のパキスタン人。ノーベル賞委員会は、二人がそれぞれ、過激思想に立ち向かい教育の権利拡大という共通の目的に取り組んでいると強調した。印パ両国の指導者にも和解を促したメッセージといえる。