記録作家・上野英信の生涯たどる本 国立の河内さん7年かけ出版-東京新聞(2014年9月1日)

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国立市在住の通訳、河内(こうち)美穂さんが、記録作家上野英信(えいしん)(一九二三〜一九八七年)の生涯をたどった著書「上野英信・萬人一人坑(ばんにんいちにんこう)−筑豊のかたほとりから」(現代書館、二千七百円)を出版した。七年かけて関係者から丹念に聞いた話を基に、英信の姿に迫った。 (萩原誠

英信は山口県で生まれ、旧満州中国東北部)の建国大学に進学、広島で被爆して終戦を迎えた。戦後は炭坑労働者となり、炭坑労働者らの交流誌「サークル村」を始めたり、炭坑で働く人たちの実情を発表したりした。

広島県出身で、中国残留邦人の支援活動もしている河内さんは、広島で被爆し、中国で学んだ英信の存在は知っていた。強く興味を持ったのは二〇〇七年ごろ。「労働者の中心的立場の人が、国策でつくられた大学に通い、軍の幹部候補生だった。どんな人なのか」と疑問を抱き、調べ始めた。

だが英信は、建国大のことや被爆経験などをほとんど書物に残していなかった。中国への留学経験もある河内さんは、知り合いのつてを頼って関係者を訪ね歩き、英信の足跡をたどった。優等生だった建国大時代、幹部候補生だった戦中、被爆終戦後に九州の筑豊地域に入り仲間を温かい目で見ていた炭坑労働者時代、さまざまな証言を基に英信の生涯をまとめた。

「安倍政権は集団的自衛権を認めた。これから私たちは遠くの戦地で、被害の側と同時に加害の側に立たされるかもしれない」と懸念する河内さん。「そんな今だからこそ、戦中から戦後にかけて両者の立場を経験した英信の考えと生涯に触れ、日本の今後を考えてほしい」と話している。

上野英信・萬人一人坑―筑豊のかたほとりから

上野英信・萬人一人坑―筑豊のかたほとりから