麻生財務相発言 ナチスにどう改憲を学ぶのか-読売新聞(2013年8月3日)

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130802-OYT1T01514.htm
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これが首相経験者の言うことなのか。現在の重要閣僚としての資質も疑わざるを得ない。

麻生副総理・財務相憲法改正を巡って、ドイツのナチス政権を引き合いに出し、その手法を学べという趣旨の発言をした問題である。

ナチスを肯定的に語ったものと受け止められ、国内だけでなく、米国のユダヤ人人権団体などにも、反発が広がった。中国や韓国も、安倍政権の歴史認識の問題と重ねて批判している。

麻生氏は、「真意と異なり、誤解を招いたことは遺憾」として撤回したものの、日本の国益も損ないかねない事態だ。

今回の発言は7月29日、都内の講演会で、憲法改正は冷静な議論が必要という文脈で出てきた。

ヒトラーがワイマール憲法の下で台頭したことに言及し、「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうかね」と述べた。

しかし、ワイマール憲法は形骸化されただけで、「ナチス憲法」なるものは存在しない。

ヒトラーは、合法的手段によって政権を掌握し、政府が国会審議を経ずに立法できる全権委任法などで独裁体制の基礎を築いた。ユダヤ人らを強制収容所に送り込み、大虐殺を引き起こした。

麻生氏は、2日の記者会見で、「狂騒の中で、いつの間にか、ナチスが出てきた。悪あしき例で、我々は学ばないといけないと申し上げた」と釈明した。それが真意というなら、「手口に学べ」という表現は全く不適切だ。

憲法改正に絡めて持ち出した意図も全く理解できない。憲法改正には国会の発議だけでなく、国民投票が必要であり、「いつの間にか」改正できるはずがない。

民主党の海江田代表は、「憲法改正は侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をすべき問題だ。こっそりやってしまえばいいなどという、民主主義を無視した発言だ」と批判している。

麻生氏の発言が、憲法改正を掲げる安倍政権にとって、打撃となったのは間違いない。

官房長官は、「閣僚は立場を十分承知し、慎重に誤解されないよう発言すべきだ」と述べた。

言うまでもないことである。だが、麻生氏は、外相、首相時代にも「アルツハイマーの人でもわかる」、「医師は社会的常識が欠落している人が多い」といった失言や放言を繰り返している。

参院選での大勝で政権のタガが緩んできたのではないか。麻生氏の発言には傲おごりも垣間見える。