美濃加茂出直し市長選 勝てる人探し難航 - 毎日新聞(2016年12月9日)

http://mainichi.jp/senkyo/articles/20161210/k00/00m/010/136000c
http://megalodon.jp/2016-1210-0940-06/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161209-00000127-mai-pol

岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長(32)の辞職に伴う出直し市長選を巡り、対抗馬擁立の動きが進まない。受託収賄罪などに問われ、2審・名古屋高裁で逆転有罪判決を受けて上告中の藤井氏は、出直し市長選で市民の審判を受ける考えだ。一方、市長に批判的な勢力は、藤井氏の高い人気に加え、突然の選挙という時間的制約もあり、身動きが取れない状況に追い込まれた。
「だまし討ちだ。こちらが候補者を立てる力がないだろうと足元を見ている」。水面下で藤井氏の辞職勧告決議案提出を模索していた反市長派の市議の一人は唇をかんだ。「有罪判決を受けた市長がおとがめなしではいけない」との思いから決議案提出を目指したが、けん制目的で否決は想定済み。本音では選挙を望んでいたわけではない。
藤井氏は26歳で出馬した2010年の市議選でトップ当選。13年の市長選では自民党県連推薦の対立候補を破り、全国最年少市長として注目を集めた。清新なイメージで市民の人気は高く、別の市議も「負ける選挙に出る人はいない。それは藤井市長も分かっている」と打ち明ける。
県政界も静観する。自民党県連は14年の逮捕後に藤井氏を除名したが、猫田孝幹事長は「藤井氏を推薦するとか対抗馬を立てることはしない」と明言。民進党県連の伊藤正博幹事長も「候補者の擁立は考えていない」、共産党県委員会も「地区委員会や地元の市民団体から声が上がってくれば検討するが、今のところない」と話す。
藤井氏は7日の記者会見で、無投票当選の可能性を指摘されると「(無投票になるかどうか)私は踏み入ることができない」とかわす一方、「どういった形であっても、どんな選挙でも、選ばれた人が信任を得たという認識だ」と強気だ。
出直し市長選は来年1月29日投開票の知事選と同日選となる公算が大きい。その場合、告示(同22日)まで今月10日現在、43日しか残されていない。【駒木智一、岡正勝】

原発国民負担「過去分」2.4兆円 福島第一処理費倍増21.5兆円 - 東京新聞(2016年12月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201612/CK2016121002000138.html
http://megalodon.jp/2016-1210-0922-41/www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201612/CK2016121002000138.html


経済産業省は九日、自民党の会合や有識者会合などで、福島第一原発廃炉など事故処理にかかる費用が、二〇一三年に試算した十一兆円から二一・五兆円に倍増するとの試算を示した。中でも被災者の損害賠償に充てる費用を捻出するため、「電力消費者は過去に原発の事故に備えた賠償資金を積み立てておくべきだった」として「過去分」の費用二・四兆円程度を原則すべての電力利用者の料金に上乗せする。原発を維持するため、さまざまな形で国民負担が膨らむ。 (吉田通夫)
原発事故の賠償費用は、東京電力など原発を持つ大手電力会社が、契約者の電気料金に「一般負担金」などを上乗せして負担させる仕組みが事故後の一一年にできた。原発を持たない新電力は負担義務がなく、電気料金にも含まれていない。
これに対し、経産省は「本来は電力会社が原発事業を始めた(一九六六年)時から、事故に備えて一般負担金を積み立てておくべきだった」として、大手から新電力に移行した消費者も含め「過去分」の負担金を請求する。現在、大手電力会社の契約者が納めている千六百億円の一般負担金の規模を基に、二〇一一年までに積み立てておかなければならなかった「過去分」は二・四兆円と試算した。
二〇年をめどに大手電力会社の契約者だけでなく、新たに新電力に移った契約者にも、等しく請求し始める方針。経産省は、四十年かけて負担する場合、月に二百五十七キロワット時の電力を使うモデル世帯の負担額は月額十八円だと説明している。
しかし、賠償費用の総額は七・九兆円に膨らむ見通しで、二・四兆円の追加負担を求めても足りない。残りは引き続き東電と大手電力会社の契約者に求めるため、大手の電力利用者は料金がさらに上がる可能性もある。このほか、廃炉費用は一三年試算の二兆円から八兆円へと四倍になる。東電に利益を上げさせて資金を捻出するが、東電管内の電気料金は他社の管内よりもさらに下がりにくくなる。
放射線に汚染された土壌などを取り除く「除染」の費用も二・五兆円から四兆円に増加。取り除いた土壌を保管する「中間貯蔵施設」の建設費一・一兆円も一・六兆円に膨らむ。ともに国民負担の増加につながる。

言わねばならないこと(82)大本営発表を教訓に 近現代史家・辻田真佐憲さん - 東京新聞(2016年12月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2016120802000210.html
http://megalodon.jp/2016-1210-0918-32/www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2016120802000210.html

日本軍が米ハワイの真珠湾を奇襲攻撃し、太平洋戦争が始まってから八日で七十五年。「勝った」「勝った」と国民を欺き続けた戦時中の「大本営発表」は、日本のメディア史で最悪の出来事だった。新聞が軍の動向をきちんとチェックしていれば、国民はそれを知ることができたし、軍もいいかげんなことはできなかった。最後の防波堤が壊れてしまった。
軍の存在感が高まったきっかけは一九三一年の満州事変だった。陸軍に批判的な論調だった新聞各紙は、スクープをものにしたいために協力に転じた。戦争に便乗すれば新聞は売れた。軍は機密費で記者を接待するなど、一体化が進み、大本営は敗戦まで、でたらめな発表を繰り返した。
大本営は太平洋戦争で連合国の戦艦四十三隻、空母を八十四隻沈めたと発表した。実際の連合軍の喪失は戦艦四隻、空母十一隻。米空母「サラトガ」は、昭和天皇が「沈んだのは今度で確か四度目だったと思うが」と苦言を呈したエピソードも残っている。戦果の誇張と損害の隠蔽(いんぺい)も当たり前となり、守備隊の撤退は「転進」、全滅は「玉砕」と美化された。
大本営発表の問題は福島第一原発事故にも通じる。それまでマスコミは原発にあまり関心を持たなかった上に、電力会社が莫大(ばくだい)な広告費を出し、批判しにくい風潮の中で事故が起きた。マスコミのチェック機能がまひしていたわけで、戦後七十年近くが経過しても大本営発表の教訓を学べていなかったのではないか。
マスコミと政治権力の一体化は戦時下の異常な事態と片付けるのではなく、現在につながるものと考えた方がいい。政治と報道が再び一体化することを防ぐために、大本営発表という歴史の暗部を共有したい。

<つじた・まさのり> 1984年生まれ。近現代史研究者。文筆家。著書に『大本営発表』『日本の軍歌』『ふしぎな君が代』(いずれも幻冬舎新書)。