大阪地裁所長襲撃事件で少年を不処分に 家裁「非行の証明ない」 (1/2ページ)-産経新聞(2007年12月17日)

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/071217/crm0712172226026-n1.htm
http://s02.megalodon.jp/2007-1218-1009-58/sankei.jp.msn.com/affairs/crime/071217/crm0712172226026-n1.htm

大阪地裁所長襲撃 自白に疑い、少年「無罪」-朝日新聞(2007年12月17日)

http://www.asahi.com/national/update/1217/OSK200712170097.html
http://s03.megalodon.jp/2007-1218-1010-34/www.asahi.com/national/update/1217/OSK200712170097.html

2007年5月24日午後 参議院法務委員会

午後1時から始まり、午後6時過ぎ、与党修正案をもって可決された。本審議は以下。


 岡田広(自民党)議員は、これは厳罰化ではないとして、政府参考人に従前からの回答を繰り返させた。また、施設の充実、児童自立支援施設対処のケア(自立援助ホーム等)の充実、教員は派遣ではなく常勤の教員が必要ではないかなどを注文した。

 警察出身の松村龍二(自民党)議員は、「警察や法務省は冤罪者をつくってよいという立場でないが、社会が要求する治安にしっかりこたえなければならないという大きな立場がある。法制度も諸外国と違う面がある。したがって、諸外国で録音、録画が実施されているからといって、刑事司法制度が異なる我が国に直ちに導入すべきとも思われない。少年事件であっても事実認定をしっかりしてほしい、14歳未満の事件が起こっても、今までは保護だけが良いこととされ、起こった事件にふたをして事実認定に力を入れてこなかったことが現在の少年犯罪を生んでいるという被害者参考人の意見は大変貴重。こうした被害者の方の声を真摯に受け止めなければならない。調査手続において、取調べの全過程を録音、録画してしまえば、警察官の前でしゃべったことが全部公になるのではないかという疑念を少年に抱かせ、十分な供述が引き出せず、事案の真相が解明されないこととなり、結果として少年の健全育成に支障が生じるのではないかと思う」と言い、従前とおりの政府参考人の見解を引き出した。

 
 千葉景子(民主党)議員は最初に、裁判員制度の実施に向けての可視化についての法務大臣の考え方を尋ねた。長勢国務大臣は、「取調べの機能を害しない範囲で検察官による被疑者の取調べのうち相当と認められる部分の録音、録画を試行している。しかし、取調べ状況の録音、録画を義務付けることについては、取調べ状況のすべてが記録されることから関係者のプライバシーにかかわることを話題とすることが困難になるし、被疑者に供述をためらわせる要因となり真相を十分解明し得なくなる等の問題が指摘されている。結局、自白強要問題と同時に、犯罪逃れが非常にやりやすくなるということが起こっても困るという意味で、刑事訴訟手続全体をどうやるかという中で十分な議論をしていただきたい」と答弁した。

 次いで本法案につき千葉議員は、「今までの質疑答弁を聞くと、今の実務では何か困ることが本当にあるのか、変える必要が本当にあるのかという印象を持つ。凶悪あるいは衝撃的な事件があると、それにのって、今のやり方では駄目、厳しい対応策を取らなければいけないということに流されている危惧を持っている」とし、家裁への原則送致について質した。(注.この点に関してはこれまであまり質疑答弁がないので、ここで、やや詳しく述べる。)

 小津法務省刑事局長は、この趣旨として「重大な触法行為をした疑いのある少年については、非行の重大性にかんがみ、家庭裁判所の審判を通じて非行事実を認定した上で適切な処遇を決定する必要性が特に高い。重大事件については、証拠資料に基づいて非行事実の有無、内容を確定することこそが被害者を含む国民一般の少年保護手続に対する信頼を維持するために必要であり、家庭裁判所の審判手続においては、被害者等は記録の閲覧及び謄写や、意見の陳述を行ったり審判結果等の通知を受けることができるため、被害者保護という観点からも、少年法が定める家庭裁判所の審判手続によって事実解明等を行う必要があると考えられる」と答弁した。

 これに対し、千葉議員は、「これまで児童相談所が福祉の観点からどのように扱うのが一番いいのかということを考え、家裁に送致した場合もあった。児童相談所の先議権で柔軟な手続も取れてきた。原則家裁送致という規定にしてしまうと、児童福祉機関の裁量権や先議的な調査が非常に硬直化し、児童福祉的な観点が形骸化していくというおそれがある。原則家裁送致制度は、現行法の児童福祉機関の先議的な裁量的な権限、そういう立場にあるのだということを否定をするものか。それとも、その原則はきちんと大事にしながら、一定、家裁の関与範囲を広げようという趣旨なのか」と質問。

 小津法務省刑事局長は、「一般論としては、低年齢の少年については児童福祉機関の措置にゆだねることが適当な場合が少なくないと考えられるので、本法案においてもこの点については何ら修正を加えていない。但書きにおいて、児童相談所における調査の結果、家庭裁判所送致の必要がないと認められるときは、家庭裁判所送致以外の措置をとることができるので、家庭裁判所送致の必要性の判断について児童相談所長等の裁量を認めている」と形式的に答弁。但書きの具体例は、「例えば、少年の心身の発達の程度が非常に不十分で、しかもそのやった事柄の動機や態様、刑罰法令に照らせば重大な犯罪に当たるような行為であるが、その実質を見ていくとそれほど悪質、重大とは言えないような事案が考えられる。共犯事件において、当該少年の関与の程度は非常に低いということが明らかになったような場合なども考えられる」とした。

 村木厚生労働省大臣官房審議官は、「今回の法改正においても児童福祉機関先議の原則は変わらない。形式的には重大な罪に該当する場合であっても、実質的には非常に加害児童が幼かったり、あるいは行為の態様や結果が軽微であるとか、あるいは事実関係が非常にはっきりしているというようなケースであれば、児童相談所の判断として、家庭裁判所での手続によって子どもに負担をかけるよりも、児童相談所限りで判断をすべきというような事例はそのように判断をしていくということになる」と法務省とややニュアンス的には異なる答弁をした。また「実際に家庭裁判所に送られるケースが増えるかどうかという点に関しては、重大事案に当たるかどうかというようなことを判定をする機関ではなかったので、こうしたケースのうちでどれだけを家庭裁判所に送ったというところの数字的に申し上げるデータがない。今回の法改正の趣旨は、重大犯罪については他の触法事件に比べても内容が複雑で、多角的な観点から慎重な事実認定を行うことが必要であるケースが多いということ、重大な触法事件については真相を解明すべきという社会的な要請が強いということ、そういった法改正の趣旨も踏まえながら、具体的な今後の取扱いについて検討していきたい」と答弁した。

 それに対し千葉議員は、「双方の答弁を聞くと、何で今度この原則送致という規定が入ったのかいま一つ分からない。結局は、その主導権を警察の側に取らせるということにしかすぎないのではないか。その意味で、この規定を削除することも必要。事案の解明が必要だという要請があることは知っているが、こういう形ではなくしても可能な問題である」とした。

 次いで、千葉議員は、「法的な意味や目的は違っても、調査と捜査は、いずれも事案の解明で、主体は警察ということで共通する。しかし、子どもの健全な育成、そういうことは警察が判断するものではなく、児童福祉の観点で判断をすることである。それをするために警察の調査で事実を解明をしておこうというがこれが調査なのか」と質した。
 小津法務省刑事局長は、「児童相談所による調査は、児童や保護者等にどのような処遇が必要かを判断するために主に児童福祉司や相談員が中心になって行うもの。児童の状況、児童の家庭環境、児童の生活歴や生育歴、過去の相談歴、地域の養育環境等の事項を調査するものであり、非行事実の有無や内容の解明を直接の目的とするものではない。警察による調査は、当該少年の抱える問題点に応じて最も適切な保護処分を選択することができるように、少年の非行事実の存否やその原因、動機等を含む内容の解明を中心として行うものであり、その調査結果は、現在でも児童相談所家庭裁判所の判断資料として活用されている。今回、警察の調査権限を法文上明記したが、警察の調査の性質や児童相談所家庭裁判所の判断資料として使われるという点については変わりがない」と答弁。

 千葉議員は、「そうすると、今の制度の中でも十分にやられていることにプラスして、特段に警察の調査という権限、しかも捜査とは違うんだというものを規定するという意味は改めて一体何なのか。調査は児相にはやらせないで警察がやるという趣旨なのか。それとも、児相の調査はあるが、それに少しお手伝い、より一層事案の解明ができるように警察もしっかり手伝いをしようという趣旨で盛り込まれているものか」と質した。
 小津法務省刑事局長は、「警察の調査と児童相談所の調査の関係、それから家裁の審判における調査との関係が変わるものではない。警察の触法少年に関する調査それ自体が少年法の中で明文をもって定められていないので明文ではっきりさせるというのが一つ。そして、一定の重大な事件については、警察は触法少年児童相談所に送り、児童相談所は原則として家庭裁判所の方に送るという仕組みをつくった、ということが異なる。警察の調査で果たすべき役割と、児童相談所の調査で果たすべき役割と、家庭裁判所に行ってから家庭裁判所で全体として総合的に調査をする、こういうような役割分担。そのことは新しい制度においても変わりはない」とした。

 千葉議員は、「新しい制度でも変わらないということであれば、何故そういう規定が必要なのかわからない。今の説明によると、これからも警察の調査は、児童相談所の意向を尊重し、例えば児童相談所の方で、もう警察の方が触ってくれるな、子どもに悪影響があると言ったら控え目にするのか。児童相談所の児童福祉という観点を十分に考えながら、その意向に反するような形でこの調査というのが行われるということはないのか」と質した。

 小津法務省刑事局長は、「児童相談所の方に事件が警察から送られてきた後というのは、警察としてはやるべき調査を尽くして児童相談所に送るわけなので、本来的にはそこで警察の調査は終わりということになる。ただ、警察が関連のことをやっていくと、全く新たな証拠が出てきたということで追加して児童相談所の方に送ることはある。その段階では既に児童相談所の調査という段階に入っているので、そこのところは十分児童相談所と協議、児童相談所の調査の妨げにならないということも十分配慮しながら、言わば例外的に行われることになると考えている」と答弁。

 千葉議員は、「調査とは言うけれども、実態としては捜査というものに性格的には重なっていく気もする。一体、調査に当たるのは警察ではどういう立場の方がこの調査というものに当たるのか」と質問。片桐警察庁生活安全局長は、「調査に当るのは、実態的には警察官が中心。警察官以外に少年補導職員という長年少年問題に携わってきた専門家も一緒に調査に当たる。事案の解明ということについては警察官が長けているので、事案の解明については警察官が中心。その背景にある非行の原因であるとか少年の特性についての具体的な調査は少年補導職員が長けている部分があるので両者相まって事案の解明、非行の原因の究明に当たっていく」と答弁。

 この答弁に、千葉議員は、「何かだんだん分からなくなってくる。事案の解明と、少年の保護や心理的状況とか非常に幅広い。それは警察の本来の役割なのか。児相では専門性を持った方が調査に当たってきた。少年の保護に期するかという面ではむしろ児相の充実を図っていくという方が理にかなっている。これまでのように児相が中心になり、事実の解明という面では児相だけではなかなかできないところがある部分を警察の力もかりて事案を解明するという、これまでのやり方で充実をしていくというこが理にかなっている。答弁をみると結論的には従来やってきたことを法案の中で明確にした、それだけなんだと、それにすぎないというふうに考える。児相の方が主体的に調査を行うようになったら、当然のことながら児相の要請とかあるいは児相の意向に反してとんでもないことを行うようなことはないんだというふうに受け止めさせていただく」と述べた。

 片桐警察庁生活安全局長が、「14歳未満の少年の犯行であることが明らかなケースでは犯罪捜査ではないので、捜索等強制処分権限が認められてない。これまでは触法少年本人や保護者の協力を得て証拠を提出いただいた。しかし、協力が得られないケースがあった」と述べたので、千葉議員は、「家宅捜索等で教育現場にも強制的な権限を行使をしていくということもあり得るので、この辺は、非常にデリケートなところに対する配慮ということもまた必要になってくる」と述べた。

 次いで、千葉議員の少年院送致に関し、「14歳未満の少年について、特に必要と認める場合というのは一体どういう場合があるのか」という質問に対し、小津法務省刑事局長は、「少年自身について非常に性格に深刻な、かつ複雑な問題があって殺人等の凶悪重大な非行に及んだような場合、そして開放的な処遇を基本とする児童福祉施設の中では処遇をすることが困難であろうと思われるケースである」と答弁した。千葉議員の、「小学生を入れることについて大臣の見解を改めて聞きたい」としたのに対し、長勢法務大臣は、「「改正」が行われたとしても、14歳未満の低年齢の施設内処遇は児童自立支援施設等の児童福祉施設で行うというのが原則であって、あくまでも例外的な場合に少年院送致が許されるものとなる。小学生であるからというだけで少年院送致はできないというふうに考えるのは適当ではないが、判断に当たっては、少年の年齢も考慮されると考えるのが当然だろうと思う。したがって、実際には小学生が少年院送致の処分を受けるということは、“相当まれ”だと思う」と回答。初等少年院の矯正教育の在り方、今後の方向性など、法務省の方で考えはという千葉議員の質問に対し、従前答弁した男女教官組の「擬似家庭」処遇を繰り返した。

 さらに、千葉議員は「保護観察中の少年に対する措置について質疑した。まず、少年院送致を求めるその手続。小津法務省刑事局長は、遵守事項違反の程度が重い場合とは、違反のあった遵守事項の内容ごとに少年の遵守事項違反の態様や指導内容及びこれへの対応状況等を総合的に判断して、保護観察によっては本人の改善更生を図ることができないと認められる程度の場合をいう。典型的な場合として考えられるのは、保護観察官や保護司との接触にほとんど応じず、あるいは接触に応じても虚偽の申告を繰り返すなどして生活の実態を明らかにしようとしないなど、保護観察の意味を失わせるような態度を取り続けるような場合である」と答弁。そして、「保護観察官等との接触に応じないなどの事情でその少年の生活状況等が十分に把握できない場合には、仮に実際は少年に虞犯事由があっても分からない。今回の要件と虞犯通告の要件が異なる。新制度は、保護観察によってはどうしても本人の改善更生を図ることができないということであるので、保護観察をしている立場からすると、何とかその保護観察の枠組みの中でやろうと努力をして、本人に対して警告を発して、それでもどうしても駄目だというときにこちらの手続にのせるということであるので、虞犯通告とは異なる面がある」と答弁。

 千葉議員は、「虞犯事由がない程度でも少年院送致ということがあり得る。社会内で保護観察という形で最終的な保護処分というのが選択をされ、その中で少年の保護を図っていこうということなのに安易に少年院に送致をするという手法が取られてはならない。保護司の信頼関係をつくって頑張ろうという気持ちを阻害することがないように、保護司に責任を負わせるような形になるのでは本来の保護観察の制度に保護司の活動を無にするような結果になりかねない。この最終的な責任というのは保護観察所が負っていくということになる。そうなると保護観察官の責任は大変。今の状況だと、本当に一人一人の少年をどの程度よく細かいところまで見ることができるのかと心配。保護観察制度の実効を向上させるには、保護観察官の増員も不可欠な条件」と述べた。長勢法務大臣は、「増員ということが一つの壁。今までもこの増員に向けて努力をしてきたが、今後も必要な増員の確保に全力を挙げていきたい」と答弁した。

 最後に千葉議員は、少年問題を考えるには、児童福祉の分野の強化充実が不可欠であるとした意見に対し、村木厚生労働省大臣官房審議官は、「今虐待の件数が非常に増えたことで、相当体制の充実強化が必要だというふうに考えている。この中核になっている児童福祉司の配置の数を増やしていくことが非常に大事、更に努力をしていきたい。一時保護施設の定員超過の状況を改善したい。児童自立支援施設に関してはキャパシティーの方はそれなりにあるので、ケアの質のところが非常に大事だというふうに思っている。検討会も開いて去年の2月に報告書が出たが、これを基にしてケアの向上を図っていきたい。法務省厚生労働省との間で交流連携をし、充実強化をしていきたい」とした。千葉議員は、「事案の解明は大事。しかし、何といっても少年に対する基本的理念とは、被害を受けた者も被害を及ぼし者も改めて育ち直して、育ち直りをしていくと。ここが共通点。そういう運用をしていただきたい」と締めくくった。

 
 木庭健太郎(公明党)議員は、虞犯への警察による調査権限の削除についてその趣旨を確認し、長勢法務大臣が、その趣旨・経緯を説明した。

 また、木庭議員は、触法少年への警察の調査官の対象となる少年が、触法少年である疑いのある者から、客観的な事情から合理的に判断して触法少年であると疑うに足りる相当の理由のある者にここは修正されたが、具体的に、これを修正したことによって対象となる少年の範囲が結果的にどのように変わることになるのかと質問した。小津法務省刑事局長は、「政府提出法案においても、合理的根拠に基づいて疑いのあると認められるということが前提であるので、この修正は調査の対象となる触法少年の範囲について政府提出法案の内容をより明確に文言として表したもの。調査の対象となる少年の範囲に実質的な差異は生じない」と答弁。

 木庭議員は、「冤罪を生じさせない措置の問題として、どうしても、14日の大阪高裁の判決が頭に引っ掛かる。高裁の決定では、自白の信用性について、取調べ官が取調べ中に机をたたくなど穏当を欠いたと、明確に指摘をしている。このような冤罪を生ずるおそれがある以上、触法少年に黙秘権の告知を義務付けるなどの適正手続の保障の問題、取調べの過程を録音、録画する必要があるという意見が出てくるのは当然のこと。参考人も、ここについてはやはり可視化も含め何らかの措置をきちんとする必要があると様々な意見があった。冤罪を生じさせることがなく、触法少年に対する任意調査の適正をどう確保していくのか、これが一番大事な課題」としたが、小津法務省刑事局長は従前の説明を繰り返した。

 次いで、木庭議員は、「保護観察中の少年の措置の問題は、保護観察官や保護司の指導監督機能を強化させようということの趣旨なのか、保護観察の実効性を高めるためにはこういった制度がどうしても必要と感じているのか、一体どういった趣旨なのか」と質した。藤田法務省保護局長は、「少年にとっても、又は一般的にも遵守事項の重要性ということが明確になる。少年に遵守事項を遵守することの重要性というものを自覚させることができる。したがって、保護観察の実効性は高まっていく」と答弁。木庭議員の、「手を焼いているというのもあるが、保護観察が色々機能している面もある。そこで、全体の枠の中にこの少年院等送致という制度を大枠として入れた場合に、子どもたちに対する影響というのが出てくるのではないか。実際にこの制度を導入することで、これまでつくってきた保護観察の対象少年と保護司、保護観察官との信頼関係の構築が損なわれるのではないかという意見が幾つか実際に出されているが、その危惧はないか」と質したのに対し、藤田法務省保護局長は、「少年に対して遵守事項を遵守することの重要性というものを自覚させ、保護観察を受けるということの重要性を認識させることができる。少年自身に主体的に保護観察を受けようという意識というものをより一層喚起することが可能になる。それを踏まえて、保護観察官や保護司が厳しい中にも温かい心を持って根気強く指導を続けていくと、少年との間に信頼関係はおのずから構築されて、深められていくということが一層容易になるというふうに考える」と答弁。木庭議員の、「そこまでやるためには何が必要かというと、人が足りないという議論になる。今、保護観察官は約650名。年間の対象者が約6万人。いま言ったきめ細かいということになったら、大変な話。具体的にどのようにして増員するのか」と質問した。藤田法務省保護局長は、「2006年度に45人の増員、2007年度に43人の増員。約650人が保護観察事件を担当しているが、それに加え、保護観察所などの課長職をつぶして130人をプレイングマネジャーということにした。実力を強化するということで、研修体系も見直すなど総合的なこともやっていきたい」と答弁した。

 木庭議員は、「児童自立支援施設送致とするか少年院送致とするか、家庭裁判所における判断基準は何か」と質問。二本松最高裁判所長官代理者は、「少年に対してどのような保護処分を行うかの処遇選択は、個々の事案に応じた各裁判官の判断であり、判断基準という形で申し上げることは困難。一般論としていうと、家庭裁判所は従前から、非行の内容、非行に至る動機、少年の年齢や心身発達の程度、少年の性格、環境等、さらには少年院と児童自立支援施設等における処遇の内容の違いなどを十分考慮した上で、少年の改善更生のために最も適切と考えられる処遇を選択してきているところ。今回の法案においては、その趣旨を十分に踏まえ、慎重な判断が行われるものと考えている」と答弁した。
 

 仁比聡平(共産党)議員は、児童相談所における調査は、これは単なる方針を決めるためだけを目的としたものではなく、すべてを包括した調査そのものそれ自体として、援助という面も有しており、そこに専門性があるのではないかと質した。村木厚生労働省大臣官房審議官は、「児童相談所が児童に接する場合、一番最初のときは、適切な援助方針を決める前のアセスメントに当たる部分というのが入口の部分。しかし、何らかの援助が必要ということで児童相談所に来られる児童がおり、様々な心理的な負担を感じていたり問題を抱えていたりということがあるわけなので、アセスメントであっても面接を始めとする対応に当たってはその児童の状況に応じた援助的視点を含んだ対応になる。また、その後、その援助方針が決まった後、在宅で過ごす児童が定期的に児童相談所に通ってきて児童福祉司等と面談をするというようなケースについてはまさしく援助である」と答弁した。

 仁比議員は、「先ほど千葉議員の質疑の中で、送致の意義、あるいは警察の調査とこの児相の調査の違いというような形で答えた。これまでと児童福祉先議主義という点では変わらないと言ったが、先ほどの警察庁の答弁も聞いていて感じたのは、結局、触法の少年について警察が事案の解明を徹底してやって、児童相談所に送致をする。児童相談所の判断は、法律の提案の構造でも奪われているわけじゃないと思うが、結局、事案解明の名の下に少年を取調べの対象にして、その結果を児童相談所に送致をする。児童相談所は、一定重大の事件については原則家裁送致、そういう構造になっているのではないか。児童福祉の先議主義を後退させるものではないというが、実際にそういう形に運用されていくとしたら、謂わば“警察捜査前置主義”、先ほどの答弁を伺うとそういう形になるのではないかと思ったが、いかがか」と質した。小津法務省刑事局長は、「あくまでも一定の重大な事件について、新しく警察が送致という手続を取ることになるわけだが、このことによって、物的な強制手続を除けば基本的な警察の調査の性格が変わるものではない。警察の調査と児童福祉機関の調査の関係、それからその先、家裁に行きました場合の家裁の調査との関係も変わるところはない」と答弁した。

 それに対し仁比議員は、「本当にそうか。法律の組み方としてはそうはなっていないというふうに局長は言いたかったかもしれないが、全体の答弁の趣旨からすれば、これまで警察の調査権限が14歳に満たない子どもたちに対しては明記をされていなかった。したがって、対物処分はもちろんだけれども、調査として事案解明のためにやらなければならないことができにくい状況があった、あるいはできない状況があった、だから今回の改正をするわけである。ということは、これまでできなかったことをやれるというわけである。加えて、児童相談所の調査では事案解明には足りないと言うのだから、警察が少年警察の分野において14歳に満たない子どもを相手に、今局長が言ったような従来から変わらないなんということはあり得なくて、どんどん範囲が広がるということになりかねないじゃないか」と質した。小津法務省刑事局長は、「現在、警察の調査権限が少年法上明文化されていない。また、対物の強制調査ができないということによって調査に支障が生じていると認識している。しかし、例えば対物強制手続ができることによって、これまでは全く警察が無視をしていたというと、警察はこれまで非常に色々な形で苦労をしてやっていて場合によっては事実関係の解明が不十分なままに、この少年を放置していてはいけないということで児童相談所等に通告をしていたような事案がある。これが、よりきちんとした事案の解明の下にその先の手続に役立ててもらえることになる。そういう関係になる」と答弁。

 仁比議員は、「少年警察活動の在り方がこの委員会でも大変な問題になっていた。今、小津局長が言われたようなことが「改正」後になるという保障がどこにあるのか。大阪の地裁所長襲撃事件の問題が取り上げられたが、こういう少年に対する冤罪事件というのはこれまで数々引き起こされてきた。それに対して警察は、そのたびごとに反省を口にしながら繰り返してきた。その少年警察の在り方を正すことこそ先決ではないか。その点についてのこの法案提出者としての局長の意見を聞きたい」と質問した。小津法務省刑事局長は、「警察における調査手続が適正なものでなければいけないという観点から、本法案でどのような内容を盛り込んだか、また衆議院での修正でどのような内容が盛り込まれたかということについては既に説明した。その中で、修正により付添人という制度が入ったことは非常に大きな意義があるのではないかと考えている」等と、仁比議員の「少年警察の在り方を正すことが先決ではないか」との見解を求める質問に対し、2回に渡ってはぐらかした。仁比議員は、2回も答えないということは、これまでの冤罪を引き起こしてきた少年警察活動の在り方を是認するという立場になると追及したところ、小津法務省刑事局長は、「少年事件のこれまでの捜査や調査につき裁判所において色々な指摘がなされているということは重々承知している。繰り返しになって恐縮だが、この法案では条文上は明らかにしているが、今回の法案の内容を踏まえてマニュアル等々で趣旨を全国の警察に徹底していくということであるので、その作成については私どもも十分協力していきたいと考えている」と他人事のように形式的に回答した。

 仁比議員は、「裁判所において指摘をされてきたことを承知しているなどという答弁は本当に信じ難い。裁判所でそういった判決が下されて、メディア的にも重大な問題として報じられるケースはごく一部。私自身が付添人活動をしてきた経験の中だって、あり得もしない目撃証言がとうとうと何十通もの調書になって、それが少年を少年院送致にする根拠として提出をされ、それが使われようとする。その疑いを晴らすために、少年も家族も付添人もどれだけ苦労しているか。何でそんな目に遭わすのか。そこを正すことなしに、刑事罰の適用を目的とした手続ではないからなどというような形式論理で、少年警察活動の権限の拡大を図るという法案を提出するその感覚が理解できない。実際に改悪後に14歳に満たない子どもに対して不当な取調べが行われた、そういうことになったら、どのように責任を取るのか。実際にそういう取調べが行われれば、後からそれが冤罪であるということが明らかになったとしても、低年齢の子どもに対しては重大な傷が残る。そういう立場に低年齢の子どもを置いてはならない。そこも少年法の大切な理念だったのではないか。その点について大臣に尋ねたい」とした。

 長勢法務大臣は、「今回、調査権限を明確化すると同時に、今局長が答弁しているような色々な手だても講じている。警察当局においても、それに沿った形で、適正な形での調査活動を実施してもらわなければならないと思う。一方、ずっと前から地元から言われていることは、「最近の子どもというのは、悪いことをしても注意をしても、警察に言ってみろと、警察は手は出せないと言っていて、これは何とかしてもらわないと町の治安が守れない」という苦情をたくさん聞かされた。警察の調査活動が問題を起こすことがあってはならないと同時に、国民が安心できる社会をつくるということも大事なこと」と答弁した。仁比議員は、「市民警察として警察が治安を確保してほしいという住民の期待にこたえるべきだというのは当然のこと。そうではなく、実際に数々の冤罪事件が起こっているのに、現実に、その中で、14歳に満たないその低年齢の子どもたちをその取調べにさらすということをやって本当にいいのかということを尋ねている。マニュアルを警察に任せて作ってもらうということでは解決はできない、問題点は解消されない。本来、この点について徹底してこの委員会で審議を尽くすべき」と追及した。しかし、小津法務省刑事局長 前同様の見解を繰り返した。

 次いで、仁比議員は、「保護処分という(最高裁でも不利益処分とされた)不利益処分が発動されるという可能性を持って進められるのが少年に対する調査。なのに、警察の調査において付添人の選任権の告知の義務すら答弁の中では認めないというのはなぜか」と、再度を追及したが、長勢法務大臣 従前同様、刑事責任を問われる可能性がない、身柄拘束を伴うこともなくあくまでも強制力を伴わない任意によるものであるからと繰り返した。

 仁比議員は、「親や家庭環境の関係で子どもの非行がある。その親が弁護士に依頼するか。それなのに、その子に付添人選任権すら告知をしないというのは理解できない。子どもに付添人選任権や不利益な事実を述べることを強要されないということを伝えたからといって、どうして真摯な話ができなくなるのか。権利保障が告知をされるということと、子どもたちが本当のことを自分の心情から話すようになるかということは、別の問題。そこを一緒にして、告知をしたら、権利を保障したら真相解明ができなくなるという言い方は絶対に納得できない。憲法の適正手続を理解していない議論だとしか思えない」と述べた。

 仁比議員は最後に、1990年に国連総会で採択をされた社会内処遇措置のための国連最低基準規則(東京ルール)があるが、大臣はこれを御存じかと尋ねたところ、長勢法務大臣は「よく分からない」と回答。仁比議員は、「この中には、保護観察、社会内処遇の在り方について、そのルールとして、「対象者が遵守すべき条件、これは実践的であり、明確であり、かつ可能な限り少なくなければならない」と、つまり、達成可能な特別遵守事項じゃなきゃ駄目だという。そして、「違反が自動的に拘禁処分を科すことになってはならない」と定められている。これは少年に対する保護観察が本人の自覚、自立を基礎として保護司を始めとしてその信頼関係の中で行われるべきものだということからすれば当然のことだと思う。「改正」後は、このような特別遵守事項たり得るのか。ここにある理念を踏まえて聞きたい。今回の法改定で特別遵守事項違反、これを少年院送致に結び付けるということになっていけば、保護観察所は、担当の保護観察官が責任を負って、保護観察の対象者が遵守事項に違反したという事実を明らかにする責任が生まれることになる。それは、その義務を果たせなかったということについて少年の側に正当な理由はないと、つまり、守れたはずなのに守れなかったということを明らかにし、かつ、保護司も含めて、保護観察を実施する側、実施者の方には、その過程において瑕疵がなかったと、扱ってきた方の責任ではないということを立証する必要がある。けれども、実際には、保護観察所は、一人の保護観察官が成人も含めて100件近い対象者を担当している。少年事件の対象者の処遇に必ずしも十分な人手と時間を掛けられる体制にはない。そこでどうしてその子の更生のために本当に的確な特別遵守事項を定めるということができるのか。それをずっと追い掛けて少年の処遇を見守るということができるというのか。もしこれが、体制の上でできない、十分な処遇を行える保証がないままこれやるとしたら、処分の厳格化を図るこの法の改定がかえって保護観察の幅を狭めてしまう。正に少年院に送致するぞという威嚇によって子どもたちを律しようとする、これまでの信頼関係に基づくものから威嚇、これを本質とするものに変わるじゃないかという懸念が出るのは当然」と質した。

 藤田法務省保護局長は、「東京ルールズは承知している。今回の「改正」により、特別遵守事項は裁判所の意見を聞きそれを尊重しつつ保護観察所において決定する。恣意的な特別遵守事項を作るということはしない。特別遵守事項の違反があるかどうかきちんと把握し、その程度が重いということが確認できなければ、保護観察所長は家庭裁判所に対する新たな保護処分の求めることはしない。保護司と保護観察官との連携協力を密にし、保護観察官が特にこの分野については心して直接の確認を十分にするというやり方をもって遺漏なきを期したい」と答弁した。


 近藤正道(社民党)議員は、「「少年警察活動推進上の留意事項について」という警察庁の通達は少年事件の捜査、調査のルールをある程度内部的にマニュアル化したもの。「非行少年と面接する場合においては、やむを得ない場合を除き、少年と同道した保護者その他適切な者を立ち会わせることに留意することと」という規定がある。これはどの程度警察実務の中で履行、遵守されているのか」と質問した。片桐裕警察庁生活安全局長は、数値的に調べたものがないので確たることは申し上げられないが、触法少年についてはある程度立会いが行われていると聞いている、と回答。近藤議員は、これが守られていないという話が公の場で出てくるから聞いているのだと追及すると、片桐警察庁生活安全局長は、結びは「留意する」と書かれてあり、決して義務付けているものではないと開き直り答弁。近藤議員は、「この通達は「原則立会い」とはっきり言っている。原則と例外を警察が勝手に入れ違うからその実態がどうなっているか分からなくなっている。現にこうやって通達が今でもある。今度は警察が根拠を明確にして一定の権限を持つ、対物の強制権まで持つ。憲法の趣旨からいけば当然であるが、通達の趣旨からいってもこれを足掛かりにして、今度の「改正」に伴って少なくとも触法少年の保護規定は制度的にきちんと行わなければならないと主張するのは当然のことである」と追及した。片桐警察庁生活安全局長は「最後は留意することと書いてあり、決して原則立ち会わせなさいという結びにはなっていない」とまたも開き直り答弁をした。

 近藤議員は、非常に勝手な、都合いい解釈であると批判。そして、この面会の立ち会う“適当な大人”の中になぜ弁護士付添人が入らないのかと質問したが、片桐警察庁生活安全局長は、これは例示であって、弁護士たる付添人についても必ずしも排除されるものではないとした。だが、近藤議員の「現在でも、触法少年の調査、つまり面接に立ち会いたいと弁護士たる付添人が言った場合には、原則これは応ずる、立会いを認める、これがそうするとルールだというふうに理解してよろしいか」との質問に、片桐警察庁生活安全局長は、「少年に無用の緊張を与えることを避けることに資する、真相の解明に協力をいただける、また事後の効果的指導育成に効果があるとかというようなことを判断をして立ち会っていただくかどうかを決定するわけなので、付添人が立ち会いたいといっても必ずしもこの趣旨に合致するわけではない。この趣旨に合致するのであれば立ち会っていただく」と答弁した。近藤議員は、「付添人の立会いを認めるか認めないか、それ警察が判断するのか。本人も希望、保護者も希望、付添人弁護士も希望している。そのときに、警察が勝手に、いや今はまずいと、そんなことできるのか。今のこの通達でも、立会い認めなければならないし、更に警察の権限が実質的に強化されるわけだから、法律、最低でもマニュアルの中にこの規定は、調査・面接に弁護士である付添人を立ち会わせる、この原則を明記すべきじゃないか」と追及した。片桐警察庁生活安全局長は「少年本人ないしは保護者が、付添人がいなければ面接させないということであれば、立ち会っていただくということになる」と回答したが、任意の活動であるから立会権はなじまないと回答した。近藤議員は、「例えば子どもが拒否をしている等は別として、一般的に特段の事情のない限り同席は認める、そのことを警察内部の通達あるいは規則に明記する方向で検討していただきたい」と述べたところ、片桐警察庁生活安全局長は、「今の通達の中に立会いに関する定めを置いているが、この立ち会っていただく方の中に例示として付添人を入れることについてはやぶさかではない」とした。

 次いで、近藤議員は、「冤罪事件はひどい状況。せめて触法少年については可視化について別格で議論してもいいのではないか。国連の拷問禁止委員会の最終報告が出、捜査の可視化をやらねばならないと言っている。触法少年については先行して可視化はすべき」と述べたが、片桐警察庁生活安全局長は、法務省刑事局長同様、十分な供述が得られないおそれがある等の従前の消極論を展開した。近藤議員は「全く説得力ない。可視化されたから真実を話さないなんて、そんなことはあり得ない。警察が勝手な取調べができなくなる、都合が悪いと、その一点以外の何物でもない」と述べた。

 さらに近藤議員は、少年院収容下限年齢14歳を定めた科学的な根拠と14歳未満がなぜ自立支援施設なのか科学的な根拠と成果について尋ねた。

 小津法務省刑事局長は、「制定当時の少年院法では、初等少年院及び医療少年院はおおむね14歳以上の者を収容するとされていたが、1949年に少年法児童福祉法の改正と併せて少年院法の改正が行われ、その際におおむねの文言が削除された。この1949年の改正法案の提案理由説明では、“14歳に満たない少年は、これを14歳以上の犯罪少年又は虞犯少年と同一に取り扱うことは適切でなく、もしこれに収容保護を加える必要のあるときは、すべてこれを児童福祉法による施設に入れるのが妥当であると思われ、またその少年院の運用もその方が一層効果的になるので、14歳未満の少年は少年院には収容しないこととした”旨の説明がされている」と回答。村木厚生労働省大臣官房審議官は、「児童自立支援施設は非常に長い歴史を持っている。その経験と児童福祉・心理の専門家と非行という問題を抱えた児童の育て直しについて様々な検討をしてきた結果として、一般に特に年齢の低い児童については、一つは健全で自主的な生活、枠のある生活というのを保障していくということが非常に重要である、子どもが愛されて大切にされているという実感を持つこと、自分に対する肯定感を持てるということにつき、こういう家庭的、福祉的なアプローチが有効である、ということである」と回答した。

 それに対し、近藤議員は、「元々は矯正教育にはこれを理解できる年齢というのがあるんだ、そこに達しない人たちは愛着の形成に力点を置く。そういうふうにやってきたのに、それがどうして一挙に3年もずれてくるのか」と与党修正案提案者(大口善徳議員・公明党)に確認した。大口議員は、「少年院で処遇する場合もある程度ターゲットを絞らないときめ細かな処遇ができない。中学校入学年齢が一つの目安になる。ただ、弾力的に少年に合わせた処遇も必要。一応12歳という線を引いて、“おおむね”をつけた」と説明。そして、「小学生というだけで本当に少年院という選択肢をなくしていいのか。開放処遇になじまない者がある。閉鎖処遇の下で高度の医療的なケアをする必要もある」と述べた。さらに大口議員は、「最終的には家裁がその少年にとってどちらの処遇がいいのか判断する。私は基本的には児童自立支援がいいと思いますよ。だけれども、稀なケースとしてやはり少年院で対応しなきゃいけない場合もあるだろう。その選択肢をやはり奪うわけにいかない」と説明した。

 これに対し近藤議員は、「参考人できた徳地元武蔵野学院院長は、一人14歳になって少年院に移したのはいたが、自分の長い人生の中で基本的に問題はなかった、うまくやっていけたということを言っている。だから、この話は、児童自立支援施設の方から出てきた話ではなくて、何か特異な事件が起きて、“こんな子を開放処遇等の開放施設に入れておくのか”という言わば世論に押される形でこの法案・立法事実が出てきた」と述べた。それに対し、村木厚生労働省大臣官房審議官は、「徳地先生など経験者からもたくさん話を聞いたが、非常に苦慮をするケースというのは、暴力性が非常に強い、性格として極端に共感性に欠けて職員との情緒的な関係が育ちにくい、そのために暴力行為が繰り返して起きるというような非常に困難であるという事例が、数は本当に少いがあることもまた事実。より良い選択ができるような仕組みというのを考えていかなければならない」と回答した。しかし、近藤議員は、「参考人で出てきた徳地さんはそんなこと言ってない。衆議院参考人奥山さんだってそんなこと言ってない。廣瀬さんだって言ってない。皆、開放だからなかなか大変だ、しかし、国立の二施設は、開放であるけれども部分的に閉鎖的なそういうものを内部に持っている。だから、強制措置を付けてくれればそれは対応できる。国立であれば医療スタッフもそれなりに備わっている。また、児童自立支援施設に対応できないような子どもなんていうのはそうたくさんいるわけじゃない。1年に正に数えるほどしかいないし、全部それは国立の二施設で十分対応できる。対応できないのなら、むしろ国立の二施設を更に充実強化をすればいい。これが、皆の話。厚労省に一体だれがそういうことを言うのか。そういう話は全然ない。この質問の事前の調査をする際にも、私が聞いても、そんなことはありませんとみんな言っていた。ところが、「改正」法案審議の場に立つと、いや少数だけれどもあるんだという」と追及。そして、「厚生労働省は、児童自立支援施設の処遇を放棄するのか、3年間にわたって。この存在が問われている。だから厚労省頑張れという話が出る。“私らにもっと力をかしてください、せめて小学生は児童自立支援でやらせてください”と何であなた方は言わないのか」と厚生労働省の無責任さを追及した。それに対し、村木厚生労働省大臣官房審議官は、「児童自立支援施設の職員は、これまでも、またこれからも、児童の立ち直りをしっかりやっていきたい。更に少年院という手段が加わっていくが、当然原則は、特に14歳未満の子どもについては、引き続き児童自立支援施設でケアをしていくので処遇を良くしていく、その力を付けていくということについては最大限の努力をしてまいりたい」と形式的な答弁に終始した。これを聞いて、近藤議員は、「参考人の話を聞く、衆議院の議事録を読む、視察へ行って見る、武蔵野学院のドクターの論文を読む、どれを見ても、何でここでやれないのか思う。結局、下からの話ではなくて、時々ごくまれに起こる非常に耳目をそばだてるような事件、これに対して、“何で、閉鎖施設、集団的に規律をしないんだ、あんな開放のところに置いておくのだ”という世論に押されたとしか思えない」としめた。

 最後に近藤議員は、「特に必要がある場合」について「相当にまれの場合だ」と法務大臣は答弁されたが、立法者の意思として、小学生で少年院というのはもう例外中の例外だと確認させてもらいたいと答弁を促した。長勢法務大臣は、「家庭裁判所で判断されることであるが、14歳未満の少年院送致は特に必要と認める場合に限り例外的にすることということになっており、小学生という場合には特段に例外的なケースであろうというふうに考えている。“例外の例外”の定義が分からない、“相当まれ”である」と答弁して質疑が終了した。


 その後、簗瀬進(民主党)議員から、民主党の修正案を提出し、その趣旨と内容を以下のように説明した。

 今回の少年法改正案は、触法少年事件に対する警察官等の任意調査権限の明確化及び強制調査権限の付与、14歳未満の少年の少年院送致、保護観察中の遵守事項違反による少年院収容制度など、少年事件の厳罰化の流れを一層推し進めようとするものである。衆議院において、民主党提案の修正案が一部取り入れられ、若干の改善あるとはいえ、なお大きな問題が残っている。

 まず、改正案は、触法少年事件について、警察官等による任意調査権限を明確化している。重大事件については、警察が適正な手続の下で調査することはやむを得ない場合もあると思われるが、調査の主体はあくまでも児童相談所家庭裁判所である。警察官等が独自の判断で調査することができる改正案の仕組みでは、警察が触法少年事件の中心機関となり、児童福祉の役割が大きく後退するのではないかと危惧される。

 また、表現能力などが不十分で暗示や誘導にもかかりやすい低年齢の少年に対して、任意とはいえ、警察官等による調査が行われることになれば、虚偽の自白がつくり出されるのではないかと危惧される。しかも、調査の全過程の録音、録画が必要だとする我が党ほか野党議員の質疑に対しても明確な答弁は得られなかった。

 次に、家庭裁判所の審判を相当とする一定の事由に該当する事件については、警察官は児童相談所長に送致しなければならないものとしている。従来、警察は、児童相談所への通告の準備行為として調査を行うにとどまっていたが、今回、通告とは別に送致規定を創設することは、警察官が触法少年児童相談所に通告しないまま、又は通告した後も、送致のために長期にわたって調査できることとなるおそれがあり、極めて不適切である。

 また、遵守事項を遵守しない保護観察中の者に対し、保護観察所長による警告手続を導入し、保護観察では改善更生を図ることができない者については、家庭裁判所が審判により、少年院送致等の保護処分を決定することができるものとしている。しかし、保護観察中の少年は、保護司や保護観察官との信頼関係を築きながら成長、更生していくことが期待されており、少年院送致等の威嚇により遵守事項を守らせようとすることは、保護観察制度の本来の意義を失わせるものであり、二重処罰に当たるおそれさえある。

 さらに、政府原案では、現在、14歳とされている少年院収容の下限年齢を撤廃したが、衆議院においておおむね12歳以上と修正された。しかし、おおむね12歳という下限年齢は、小学生の収容も可能とするが、小学生は児童自立支援施設で育て直しを図るべきである。

 また、児童の健全育成と保護の充実を図るため、児童相談所児童自立支援施設等の人的・物的体制の整備拡充を行い、児童福祉の向上、発展に努めるべきである。
 本修正案は、こうした問題点について、少年法の理念に基づいた修正を行おうとするものである。以下、その内容を説明する。

 第一に、触法少年事件についての警察官等の調査を、児童相談所長の要請を受けた場合又はその同意を得た場合に限定し、その調査を適切に行うための準則は国家公安委員会規則で定めるものとしている。

 第二に、少年に対する質問に際しては、少年、保護者等が求めたときは、児童福祉司又は付添人の立会いを認め、警察官は、少年に対し、あらかじめ答弁を強要されないこと及び児童福祉司又は付添人の立会いを求めることができる旨を告知し、少年の答弁及び質問の状況の全過程を記録媒体に記録しなければならないものとしている。

 第三に、警察官は一定の事由に該当する触法少年事件を児童相談所長に送致しなければならないとする旨の規定、及び児童相談所長等は警察から一定の重大事件の送致を受けたときは原則として家庭裁判所送致の措置をとらなければならないとする旨の規定をそれぞれ削除するものとしている。

 第四に、家庭裁判所は、審判の結果、保護観察中の者が遵守事項を遵守せず、保護観察所長の警告を受けたにもかかわらず、遵守事項を遵守しなかったと認められる事由があり、その程度が重く、かつ、その保護処分によっては本人の改善更生を図ることができないと認めるときは、決定をもって少年院送致等の保護処分をしなければならないとする旨の規定を削除するものとしている。

 第五に、初等少年院における処遇は、児童自立支援施設における処遇と著しく均衡を失することがないように留意されなければならないものとするとともに、少年院収容年齢の下限をおおむね14歳以上としている。

 第六に、国及び地方公共団体は、触法少年及び虞犯少年事件に適切に対応できるよう、児童相談所児童自立支援施設等について、職員の増員、研修等の実施、施設の充実等必要な体制の整備に努めるものとし、これに伴い、法律の題名を少年法等の一部を改正する等の法律に改めるものといたしている。


 仁比議員と近藤議員が、政府案に反対、民主党提出の修正案に賛成で討論したが、民主党修正案は少数で否決。原案が多数で可決された。

 その後、可決された法律案に対し、自由民主党民主党・新緑風会公明党日本共産党及び社会民主党・護憲連合の各派共同提案による附帯決議案(⇒付帯決議)を提出され、全会一致で採決された。
 

2007年5月25日の参議院本会議では、法務委員会における審査の経過と結果を報告され、投票総数194、賛成106、反対88で可決された。

2007年5月22日参議院法務委員会

櫻井充(民主党)議員は、国家が子どもへの厳罰化だけいうのはいかがかという趣旨で質疑をした。

親の役割は重要。少年の健全育成は保護者との信頼関係やその監護、物心両面にわたる支援があって初めて達成できるもの。その意味では、一般的にまず、子どもの健全育成の責務を負う。親が変わらなければ子どもは変わらない。非行少年は「加害者」であると同時に「被害者」でもある。その「被害者」だけが罰せられて本当によくなるのか、親への保護支援をする必要がある。少年法に親の責務規定を設ける必要があるし、親へのプログラムをきちんと作る必要があるとした。そのことが十分に担保されないような内容で幾ら改正されても、少年犯罪は全く減らないと質した。

長勢法務大臣は、従前からも親への指導はしているし、今回の「改正」法案においても、少年院・保護観察所の長による保護者に対する指導、助言等に関する規定を設けることとしており、これにより、保護者に少年の監護、立ち直りのための責任を自覚させる働き掛けをより積極的かつ効果的にできるようになるものと考えている。
親の責務を法律で強制的に書くのはいかがなものか、回答とした。


浜四津敏子公明党)議員は、与党修正案を固めるためだろう、以下質問。

少年の更生にホースセラピーの活用を提案した。法務省刑事局長は、少年非行について事案の真相を明らかにした上で適切な処分を行い、少年の健全育成を図ることが最も基本的な施策と考えている、今後とも、関係省庁とも連携を取って、家族、地域社会、学校、連携した中で、こういう問題が起こらないように一層の努力を努めていかなければならないと考えていると答弁。

次いで、18歳投票権を認めた「国民投票法」可決に伴い、年齢問題で少年法が対象になるのかと質問した。

長勢法務大臣は、内閣の「年齢条項の見直しに関する検討委員会」で検討するが、少年法が関係するとした。

更に、触法少年に係る事件で、これまで警察の調査について現実にどのような支障が生じていたのか質した。
法務省刑事局長は、強制権がなかったので、証拠物の押収等ができなかった等回答した。

そして、「改正」に対応するための、少年の特性に関する専門的知識を有する警察職員とはどのような職員か、その効果を質問。

法務省刑事局長は、具体的には国家公安委員会規則で詳細が定められることになるが、基本的には少年警察活動規則第2条第10号に規定されている少年補導職員を念頭に置いていると回答し、事案の真相を解明する上でも有効であると考えられるとした。

同議員は、与党修正では、触法少年の事件の調査に関し少年の情操の保護に配慮しつつ行うこと、質問が強制にわたってはならないこと等の規定を新設したが、こうした与党修正の趣旨について担当する警察官の意識をより高めるよう徹底を図った上で触法少年の調査を行う必要があるのではないかと質問。

警察庁生活安全局長は、触法少年に係る調査は刑事責任の追及を目的としたものでなく、少年の健全育成に資することを目的として行われるものであるから、少年が自ら真実を話しやすい環境を整えることが大事。触法少年の調査に当っては、少年警察活動規則や犯罪捜査規範において、これまでも配慮規定がある。今後、「改正」したら、規則の整備や通達等により、「改正」の趣旨、留意点の周知徹底等に取り組む。14歳未満の少年に着目した配慮事項を規則又は通達に盛り込む。さらに、研修等強化し、徹底すると従前の回答を維持。

なお、与党修正案提案者は、触法少年のための付添人は警察の押収等に関する処分について準抗告ができると回答。
 
その他、14歳未満の少年が児童自立支援施設に送致されたものの、14歳になった後、少年院に送致された事案についてと、少年院の下限年齢撤廃議論の法制審の議論はどういうものだったか質問。
法務省刑事局長は、選択肢を増やす等従前繰り返されている賛成意見と、刑事責任能力を有しない14歳未満の少年を少年院に送致するのは適当ではない等の意見を説明した。
 
最後に、浜四津議員は、少年院に送致された学齢児童生徒の学籍の取扱いを質した。

法務省強制局長は、就学猶予又は免除が認められた場合には在籍校との関係がなくなり、少年院の院長において、教科教育を行った旨の証明書(卒業証書に代わる)ものを出す。就学義務が猶予又は免除されていない場合には、そのまま通学していた学校との在籍関係が継続すると説明した。

仁比聡平(日本共産党)議員は、先週、この委員会で委員視察を行った国立武蔵野学院の医務課長富田医師の「児童自立支援施設そこで何が行われているのか」という論文を引用しながら、児童自立施設ではなぜだめなのか、むしろこの処遇を充実することが大事ではないかと追及した。

富田医師は、冒頭の部分で、「少年法を改正して14歳未満でも少年院に入れることができるようにするという、正に児童自立支援施設の存在価値自体が問われる議論が起きている」とした上で、「しかし、そのような議論の中、マスコミ報道での司法あるいは福祉関係者の識者のコメントを見て驚かされることがある、いわく、強制的措置の180日間が過ぎたら少年は社会に出てくる、いわく、児童自立支援施設福祉施設であるから非行少年処遇のノウハウがないというが、事実はどちらも大きく異なっている」と厳しく指摘をしている。

富田医師が挙げている二つの批判は全く根拠がないのではないかと質問。

厚生労働省大臣官房審議官は、児童自立支援施設は、どういった施設かということが余り知られていない。一律に当初、入所をして、再び社会で暮らせるしっかりした力ができていないのに自動的に、例えば一定の期間が過ぎれば社会に出てくるとか、あるいは逆に、児童自立支援施設が少年を閉じ込めておくような施設であるという誤解があるが、どちらも当たっていないと回答。

仁比議員は、子どもの健全な発達、成長のための最善の利益の確保など子どもの権利擁護を基本として、子どもが抱えている問題性の改善、回復や発達課題の達成、克服など、一人一人の子どものニーズに応じたきめ細かな支援を実施すると理念を述べた「児童自立支援施設のあり方に関する研究会」(2006年、報告書)を引用。

マスコミなどでの根拠のない批判の中には、家庭的、福祉的なアプローチと称して甘やかしているのではないかと言わんばかりの誤解に基づいた指摘がある。実際に国立の二つの施設における処遇というのはそのような甘やかしなどでは全くないということは、実際に視察に行った国会の議員には明らかだろうと思う。上記報告書の「枠のある生活」という支援の基盤が大事である。その中核になっているのが小舎制である。富田医師の論文で、「想像力を働かせていただきたい」といい、「一人だけで学校全体あるいは地域全体を騒動に巻き込むような、ほとんど学校にも通わなかったような非行少年ばかりを集めて、施錠もせず、体罰もなしに、ごく普通の生活を、しかも集団で送らせることが容易でないことをお分かりいただけるだろうか。では、どうしてこれが可能なのだろうか。違うのは、特定の大人が少年たちと接している時間の長さである」と。この夫婦小舎制を中心にした処遇が、重大かつ処遇困難と言われる触法事案だとか、あるいは発達障害を持つ少年のケアについて効果を上げている。どうなのかと質問。

厚生労働省大臣官房は、「職員との厚い信頼関係が少年との間で結ばれることにより、少年の立ち直りを非常に大きく助けている。それに加えて、特に非常に重大な触法事案を起こした少年、あるいは発達障害の少年等については、一人一人に合った個別の支援計画をしっかり立てる。武蔵野学院のような非常に重大な触法事案の加害者の少年が入っているケースなどについては、夫婦小舎制の職員のほかに外部の、主に医師等の専門家も入り、専門家と直接に処遇をする職員などが定期的にいろいろな議論をしながら、少年たちが自ら行った行為に対してきちんと直面をし、自覚を促していくというようなケアもしている。」と回答。

仁比議員は、富田医師はこの論文で、被虐待児の事例、行為障害を持つ少年に対する対応、ADHD注意欠陥多動性障害、あるいはアスペルガー症候群、あるいはそのアスペルガー症候群ADHDの合併の疑いのある少年などについて、具体的なこれまでの処遇の実際に照らして、児童自立支援施設の取組がどのような効果を上げているかということを詳しく報告をされている。
本法案で対象となるような重大な加害少年ということで考えると、国立の二施設の専門的な機能を充実することこそが大切だと思う。今でも対応できることが視察で学んだ。しかも、定員的に見ても、まだ国立の二施設で受け入れることも可能であるのに、国立の二施設の児童自立支援施設の専門的な機能は現状で限界にあるというふうに審議官は考えるのか、と質疑。

しかし、厚生労働省大臣官房は、非常に困難な事案についても児童自立支援施設において一定の成果を上げてきたと考えている。ただ、そういう中で、開放処遇という自立支援施設の特性を生かした処遇になじみにくいケースがごく少数あるというのが職員の実感。自立支援施設の限界というより、どちらで処遇をすることがその子どもにとって一番合った処遇が受けられるかという観点が非常に大事と、これまでの説明を繰り返しただけであった。

仁比議員はまた、富田医師は同じ論文の中で、2001年少年法「改正」後、初犯であっても多少とも大きな事件の場合には、14歳以上であれば少年院に措置される事例が多くなったという印象がある、それまでは児童自立支援施設の処遇がよりふさわしいとされていたのに、2001年の少年法「改正」の後、初めから少年院ということになっているのではないか。近年の厳罰化への圧力の中で本当により適切な処遇方法を選ぶということが決して容易ではないこともまた明らかではないだろうかという趣旨のことも言っているのである。
子どもの最善の利益ということを考えたときに、確かに開放処遇ということになじみにくい子どもがごく少数いるということもそうなのかもしれないが、少年院でいいのかと、あるいは今回のような改正でいいのかということについての答えが出ているわけでないと思うと切り替えした。

さらに、仁比議員は、問題は、14歳に満たない子どもたち、とりわけ小学生でも少年院に入れるということで本当にいいのかということである。初等少年院で処遇をされている子どもたちというのは、大変な非行事実で少年院に送致をされている。集団的な、グループ的な処遇も少年院で行われている。それを小学生と一緒にするということになる。逆に、児童自立支援施設に匹敵するような処遇を少年院で行うことができるのかと質問。

これについて法務省矯正局長は、8か所の少年院を指定して準備を進めている。一番の特徴は、処遇スタッフ。特に小学生の年齢にある少年については、心の発達という問題もあるので、男性と女性の教官、精神科の医師、カウンセラー等がチームを組ませて、それでその当該子どもを処遇していくと回答した。

だが、仁比から、児童自立支援施設の取組や成果に代わるようなものではないとはねつけられた。

近藤正道社民党)議員は、まず、警察が調査権を持つということに大きな問題として、警察と児童相談所の関係、つまり児童相談所優位という、ここがとにかく主導権を取って触法少年のいろいろな調査を行うということは、児童相談所優位の大原則が逆転をするんではないかという懸念があることを「大阪地裁所長襲撃事件」を挙げて追及。

13歳の少年が、児童相談所の一時保護所に64日間身柄を拘束されて、その間に、警察官より暴行、脅迫を伴う長時間の取調べを連日受け、襲撃事件の自白を迫られたと言われている。警察は、夕食時間が大幅にずれ込むような長時間の取調べをしたり、面談室で取調べ官が少年をどなり付ける声が児童相談所の執務室にまで漏れてきたことがあった。問題は、その際の児童相談所の職員の態度である。児童相談所の職員はだれも制止や抗議をしなかったようだ。これらは、児童相談所が警察と協力すれば、事実上身柄を拘束した状態で長時間制約なく取調べという調査が可能になるという実態を示している。児童相談所はもっとしっかりしてもらいたいが、今でも警察が事実上入ってくると警察の力が事実上強い。今度警察が調査権を持つと更にこの関係が強大なものになり、文字どおり児童相談所優位という大原則は完全にほころび、壊れてしまう。
そこで、児童相談所の要請があったとき、あるいは児童相談所のこの指示の下で警察が動くという大原則は完全におかしくなるが、この大原則は維持されるのかと質問。

法務省刑事局長は、今回の改正によってこれまでの児童相談所の役割や児童相談所と警察との関係が基本的に変わるものではないと回答。

警察庁家庭安全局長 警察が行う触法少年との面接はあくまでも任意のもの、決して強制力を及ぼすものではない。他方で、一時保護は、児童相談所長の権限において行うものであるから、警察は、児童相談所長のその権限下に、そういう権限があるということを前提として調査を行うということであるから、児童相談所の方で何らかのこういった配慮をすべきだということであれば、それに従うべきものである。

近藤議員は、「児童相談所の指揮の下で行う、児童相談所がこれやめてもらいたいという指示があればそれはやめる」この点は間違いないのかと念押しで、児童相談所の方から指示があればそれに従うのかと確認。警察庁生活安全局長は、児童相談所長から一時保護の趣旨に反するということでもって、このようにしてほしいということがあれば、それに対して我々は従うということになると回答した。

次いで、近藤議員は、憲法の適正手続が触法少年事件にどの程度効力を及ぼすのか。最高裁の判決の趣旨、学説等を見ても、触法事件であっても様々な不利益を少年に及ぼすものであり、適正手続の理念は可能な範囲で調査にも及ぶというふうに考えているが、いかがかと質問。警察庁生活完全局長は、適正手続を可能な限り尊重すべきことは当然。だが、触法少年の調査というのは刑事手続と趣旨・目的が異なるので、その目的に沿ってすべてが適用(準用)されるわけではないと従前の答弁を繰り返した。

さらに、近藤議員は、具体的に、付添人選任権は警察が告知することが含まれているのかを質した。

与党修正案提案者は、警察による調査はあくまでも任意で行われるもの。犯罪少年については、刑事訴訟法も身柄拘束されていない少年の任意の取調べにおいては弁護人選任権の告知義務付けがされていないことなどからすると、触法少年の場合にだけ付添人選任権の告知を義務付けることは相当でないと、否定。実際上、警察がいろいろな過程で知らせるとのが望ましいにとどまった。
 
近藤議員は、人権に配慮した様々な諸規定はその事柄の性質上、可能な限り触法少年に及ばせる、弱い立場にある少年だから更にきめ細かく丁寧に教えてやる。少年審判規則の中で具体的なことを書いてあるのだから、警察のレベルではもっときめ細かくやるべきだと追及したが、「警察で、選任権について積極的に言ってもらうことが望ましい」(与党修正案提案者)、(マニュアルに入れるかについて)、「一律の義務付けということは、調査の趣旨・目的からしてふさわしくない場面があり得ると考えている。しかし可能な限りという意味で、そういう点も含めて検討いたしたい」(警察庁生活安全局長)にとどまった。

また、取調べ時間の制約についても、警察庁生活安全局長は、「調べの時間については、今でも深夜にわたってはいけない、長時間にわたってはいけないというような配意事項は決めている、ただ、個々の事案によっていろいろ具体的な事情があるので、一律に何時間とかいう話にはちょっと難しい」と回答した。

2007年5月17日参議院法務委員会

午前中に以下の参考人意見を聴取した。


1. 長沼範良上智大学大学院法学研究科教授は与党修正案を評価して以下の意見を述べた。

(1) 触法事件に係る調査
少年事件において事案の真相を解明することは、非行のない少年を誤って処分しないため、非行のある少年について個々の少年の抱える問題に即して適切な保護を施し、その健全育成を図るためにも不可欠の前提であり、さらに被害者を含む国民からの少年事件に対する信頼を維持するという観点からも極めて重要。触法行為の存否、内容、経緯、動機、背景事情について、少年保護事件の審判に必要・相当な範囲で情報を収集し、それらを踏まえて少年の資質に応じた処遇選択をすべき。現行法下では、警察の責務一般を定める警察法を根拠として任意の調査がなされているという実情。警察の責務一般を定めた規定のほかに個別の授権規定がない状態は好ましくなく、明示した根拠規定が存在することが望ましい。それに、現行のような任意の調査活動だけで、常に触法少年に係る非行事実の認定及び処遇選択にとって有益な情報が十分に収集できるか疑問。
警察の調査権限を明示するとしても児童相談所の調査を侵食するものではなく、むしろ警察による非行事実そのものの調査により福祉上の措置あるいは保護処分の要否の判断が一層適切になされるようになるものと考える。
修正案で配慮規定と付添人選任権が入った。これらに関連して、供述拒否権の告知をすべき、弁護士である付添人を質問に立ち会わせるべき、質問の過程を記録化すべき等の議論があるかもしれない。しかし、触法少年には刑事訴追の可能性がない。少年が正直に思っていることを話すということは調査の目的に合致する。保護者その他適切な者を立ち会わせるものとすることで、ありのままを語らせることに差し障りとなることも考えられる。仮に立ち会わせるとする場合であっても、法律家の在席が常に最善の選択とは言えない。供述採取の過程を記録化することについては、成人の刑事事件においてもなお試行の段階にあることなどからすると、直ちに法律に取り込むべき内容とは思われない。調査に当たり、少年の被暗示性、脆弱性等の特性について十分な理解をもって臨まなければならないが、警察内部の規則、通達等において十分配慮した内容が盛り込まれることを期待するし、警察官等が少年の特性を理解した上で調査に当たれるような人的体制を整えるべきである。

(2) 14歳未満の少年院送致
14歳未満の少年であっても、深刻な問題を抱える者については、早期に矯正教育を授けることが健全育成を期する上で必要かつ相当と認められる場合あり。現行の少年院法で定める年齢下限を撤廃すべき。ただ、少年院における矯正教育の実効性という観点からは一定の限界があるので、一応の目安として、早期の矯正処遇が特に必要とされる者の範囲をおおむね12歳以上とすることは、趣旨を実質的に損なうものではない。個別の少年の問題性に着眼しつつ、少年の健全育成にとって最も適切な処遇選択の可能性の幅を広げるためのものと位置付けるべきである。

(3) 保護観察中の遵守事項違反を理由とする少年院送致
虞犯通告の活用等のほか、更に遵守事項に積極的な機能を持たせる必要がある。新たに保護観察所長による警告、その申請による家庭裁判所の保護処分決定を設けることには大きな意義がある。重大な遵守事項違反を新たな審判事由とするものであるので同一の処分事由に基づく事後的な不利益変更ではない。少年法3条に掲げる少年の非行事由と並ぶものとして理解すべきであり、それ自体として当該少年の再非行のおそれを推認させるに足りるものであることを要すると解すべき。


2. 黒岩哲彦日本弁護士連合会子どもの権利委員会委員長は与党修正案も危険性があると以下のような意見を述べた。
日弁連は、今回の法案の提案理由とされている少年事件の低年齢化、凶悪化に理由がないということ、今回の法案が警察中心の取締り型に転換させる危険性があるということについて従前から主張したとおりである。修正案もその危険性は同様。

(1) 触法少年に対する警察の調査権限の問題
非行事実を正確に認定することは少年司法手続の大前提・出発点であることは当然のこと。また、年少少年が質問者の暗示を受けやすい、また迎合的になりやすいという特性があることも周知のとおりである。
日弁連は、この間年少少年の事件の事例を集積をしてきた。今日は二件だけ紹介する。一件目は、沖縄県浦添市の連続放火「浦添事件」である。中学2年生、13歳の少年が警察の事情聴取を受けて自白、児童相談所に通告された後に否認に転じたケース。少年は、警察官に髪を引っ張られるなど暴行を受けて怖くなった、虚偽の自白をしたと主張。2004年9月29日那覇家裁で、「非行事実なし、触法事実なし」と判定された。
二件目は、3日前(2007年5月14日)に大阪高等裁判所の抗告審の決定があった「大阪地裁所長襲撃事件」。13歳少年が別件で児童相談所に通告され、児童自立支援施設へ送致になった。その後、延べ34日間の取調べにより、所長襲撃事件の自白に至る。この少年の自白により、成人2人と、少年2人(14歳と16歳)が逮捕された。成人については、2006年3月に、「防犯カメラの映像と被告人らの身長に大きな差がある、自白についても問題がある」として大阪地裁で無罪判決が出ている。少年については、それぞれ“有罪”の判決が出たが、このうち14歳の少年について判断が出たのが5月14日の大阪高裁の決定である。この決定の中で大阪高裁は、「少年の取調べに当たって穏当を欠く、府警の警察官が取り調べの中で机をたたいてどなった」「誘導があった」という理由で、大阪家裁の“有罪”の決定を取消した。
触法事件についても冤罪はあってはならない。触法少年の事件につき警察官に調査権限を付与することは冤罪の危険性があるものであると考える。少なくとも14歳未満の少年に対する警察の調査への弁護士の立会いと調査全過程のビデオの録画を速やかに制度化することは必要不可欠であると考える。今回の修正案で少年の情操の保護に配慮すること、弁護士の付添人選任、質問に当たっては強制にならないようにと修正された。しかし、権利は知らなければ行使はできない。14歳未満の少年がこれらの権利保護の内容を理解しているということは想定できない。少年審判規則29条の2では、「裁判所は少年に対し供述を強いられないことを分かりやすく説明する」と規定している。裁判所にすらこのような説明義務を付しているのであるから、この規定の趣旨、精神を生かして、警察官が権利保護の内容を分かりやすく説明することを告知する規定を明記すべき。
実際に触法少年を中心的に担うのは児童相談所であるが、現在児童虐待への対応から大変多忙である。児童相談所のスタッフの増員、専門性の強化、少年非行対策班の設置など人的な体制の整備を進めるとともに、一時保護所の物的設備の改善、拡充を図ることが必要である。

(2) 少年院の下限年齢
おおむね12歳とあり、依然として小学生が少年院に収容される可能性が残っている。
日弁連では、「少年非行等の概要」(警察庁)の2001年版以降により、14歳未満の少年で殺人事件という罪名が付けられた事件について分析した。この分析で分かった第一の特徴は、被害者が家族(実父、実母、弟など)である場合が大変多いということである。例えば、2002年4月の事件は、11歳の小学校6年生が自殺を企図して自宅で包丁で指を切るなどしたところ、実母にとがめられて叱責を受けたため、実母の頸部を刺すなどして殺害したというものである。二つ目の特徴は、未遂が多いということである。
この傾向は、14歳未満の子どもの社会的な関係の狭さ、そして精神的、体力的な未熟さから常識的に理解できるところである。それぞれの事件につき生育歴等それぞれの事情があり不当な一般化は慎まなければならないが、弁護士が付添人として少年とかかわっている実感は、とりわけ重大な事件を起こした少年、特に年少少年ほど、人格形成が未熟であって対人関係を築く能力を欠いていることである。家庭環境に大きな問題があるということも実感するところである。このような少年には、まず温かい擬似家庭の自立支援施設で育て直すことが何よりも必要であり、有益であると考える。日弁連では、少なくとも、小学生を少年院に収容できるような制度は妥当ではないと考える。

(3) 保護観察中の遵守事項違反を理由とする少年院送致
保護観察官・保護司が現場で大変な御苦労をしていることは十分に理解しているつもりである。しかし、遵守事項を守らないということで少年院に入れるぞということでは、信頼関係を基礎とした保護観察制度の神髄を失わせてしまう。日弁連では、保護観察制度の実効性を向上させるために、更生保護のあり方を考える有識者会議の2006年6月27日提言にあるように、保護観察官の倍増、また保護司の選任制度についても公募制の導入など制度の見直しなどを積極的に推進することで、保護観察制度、更生保護制度自体のより一層の改善が必要であると考えている。

(4) 国選付添人制度の更なる拡充
これは日弁連の責任と決意である。今回の政府案により、国選付添人制度につき少年審判についての検察官の関与を前提としない国費での弁護士付添人制度が導入され、修正案で国選付添人選任の効力が少年の釈放後についても最終審判まで維持されるようになったことについては積極的に評価する。しかし、選任の対象事件が今回の法案では一定の重大事件に限られている。2009年には被疑者国選制度が全面的に実施になり、必要的弁護事件にまで拡充される。このままでは、2009年になると、被疑者段階では国選弁護人が付くのに家庭裁判所に送致されると国選付添人が付かないという問題が生じる。日弁連は、人的・数的・質的な対応能力について一層努力する。


3. 武るり子少年犯罪被害当事者の会代表は法案賛成として以下のような意見を述べた。

(1) 少年犯罪被害当事者者の会設立
私の息子は、1996年11月、16歳のときに、同じ16歳の見知らぬ少年たちにいわれのない因縁を付けられ、何度も謝っているにもかかわらず、追い掛けられ、一方的な暴行で殺された。事件の後、理由がたった一つ、加害者が少年ということだけで、どこのだれが、なぜこんなことをしたのか、一体何があったのか、警察も家庭裁判所も一切教えなかった。法律は、殺された息子のことも遺族のことも全く考えていないということを知った。特に、14歳未満の少年事件はそれ以上である。
1997年12月に、同じ思いの遺族とともに少年犯罪被害当事者の会をつくりその代表をしている。会に参加は30家族遺族。それに対して150,160人の加害少年がおり、中には14歳未満の少年も入っている。私は息子の加害者を一生許さないと思う。しかし、この会は、ただ厳罰にしてほしいということを言っているのではない。

(2) 法案について
従前から、少年事件であっても事実認定をしっかりしてほしい、それには警察の捜査が、調査が大切だと言っているのである。そこで初めて、その事実に対してその罪に合った処分、時には14歳以上であれば刑罰も必要であると言っているのであって、それは、厳罰化ではなく、適正化である。
今回の法案である14歳未満の事件でも同じだと思う。14歳未満であっても、警察が権限を持って捜査、調査などができるようになるということはとても大切なことである。虞犯少年であっても大切なことであったが、そのことが削除されたことは残念である。私たちの会の関係では、集団暴行事件が多い。その中には14歳未満の少年も入っている。その少年たちは突然型とか、普通の子が事件を起こしたというのとは違い、事件の前から、深夜徘回、いじめ、恐喝、バイク盗など必ず前に何かをやっている。捜査、調査をしっかりすることで、加害少年も自分のやったことに向かい合うことを学ぶスタートになると思う。
加害者が、警察の調査が入ると萎縮や誘導の心配があると言われる。今まで150、160人の加害少年を見ていると、万引き等の軽犯罪は別としても、必ずと言っていいほど弁護士が付いていた。そして、加害者の保護、人権だと言うと、その権限を持っていない警察は調査がしたくても、捜査がしたくても、必要であってもできないという現状があったと思う。権限を与える必要があると思う。
14歳未満の事件が起こっても、今までは保護だけこそが良いこととされ、起こった事件にふたをして事実認定に力を入れてこなかったことが現在の少年犯罪を生んでいるのだと思う。保護をしたり、教育をすることは大切なことであるが、それを正しくするためにも、調査、捜査が正しく行われなければ始まらないと思う。
黙秘権を与えるべきだということも言われているが、本当は親や付添人が、加害少年の心を開いて、自分のやったことを正直に言いなさいと教えるべきではないか。未熟な少年だからこそ、丁寧にしっかりと正しいことを教え、正しい道に導いていくべきではないかと思う。
14歳未満の少年であっても、自立支援施設だけではなく、時には少年院送致も考えなければいけないときが来ていると思う。(質問に対し)同じ事件で年齢により少年院と児童自立支援施設にわかれるのはおかしい。
加害少年に優しい社会だけでなく、もう少し被害者にも優しい社会になってほしいと願う。その一歩として今回の法案を通していただきたい。


4. 徳地昭男元国立武蔵野学院長は少年院の下限年齢撤廃につき慎重にすべきとして以下のような意見を述べた。

(1) 児童自立支援施設の処遇
37年間、児童自立支援施設に勤務し、非行少年、非行少女と呼ばれる約1800名の子どもたちとの出会いがあった。その間15年間は、私たち夫婦の職員(若しくは職員の家族)と、子どもたちと一緒に一つの棟の中で起床から就寝まで一緒に生活することを経験し、78名の子どもを社会復帰させた。今でも夜な夜な電話があり、自分たちの悩み等を言ってくる生徒もいる。
感化院時代から児童自立支援施設に至るまで約123年間の長い期間があるわけだが、一貫して保護者の養育能力に問題がある子が対象である。広い意味でのネグレクト(養育の拒否、怠慢)、そういう児童をすべて受け入れてきた施設と考えてよい。それに対する行動化が実際非行となって現れたと考えられる。それに対する最も有効な処遇として、児童自立支援専門員・児童生活支援員と子どもたちが一つの擬似家族的な環境を用意し、その中で普通の家族が送るような生活に近い処遇を行うことを考えてきた。昔から大切にしてきたのは、家族的な雰囲気、温かな人間関係を育てるための配慮であり、それを何よりも大事にしてきた。家庭的な雰囲気は少年院にはない特色で、存在意義も大きいと言われるゆえんである。
施設の多くは自然に恵まれた環境の中に存在し、自然との触れ合いの中で子どもたちは少しずつ気持ちが素直になり、やがて落ち着きを取り戻す。学校や家庭で安らぐ場所を持てなかった子どもたちが、児童自立支援施設に入所して、職員と学習、掃除、食事、作業、レクリエーション等を通じて、児童本来の気持ちが徐々に現れてくる。職員や他の児童との交流を通じて、少しずつ大人への不信感を取り除き、心を開いていく。施設での生活体験を通して自分の居場所を体得させ、自立へ歩み出す支援を心がける施設である。

(2) 14歳未満の重大触法少年の処遇
14歳未満の児童で、重大触法事件では、行動の自由の制限が認められる国立児童自立支援施設武蔵野学院・きぬ川学院)に送致されてきた。そこで長い日々を子どもたちと接してきた経験からいえば、心身の発達が未成熟な14歳未満の児童、特に小学生は、擬似家族的な環境を与え、職員との生活を通して、対人関係や基本的な信頼感などの構築が図ることが必要である。児童福祉施設ではそれができるので、その対応で十分である。
国立武蔵野学院には、1977年から2004年まで、殺人若しくは傷害致死で入ってきた子どもが全部で9名いた。年齢的には11歳から14歳。現在14歳の大部分は審判結果で少年院送致になっているが、当時は、いろんな事情をかんがみて国立武蔵野学院の方に送致された件が一件あった。重大触法事件の多くは突発的なものが大部分である。この9件中、1件だけ途中で処遇変更したケースがあるが、残り8件は、退所してから20歳まで、家庭裁判所の方に係属したという記録が1件もない。
以上の点をかんがみると、殺人若しくは傷害致死という重大事件を犯した児童が、決して大きな問題を抱え、その処遇が困難であるとは言えない。また、児童自立支援施設の処遇の内容が重大事件の中には有効なものがあるのではないか、そのために予後の成績も良好ではないかと考えている。
経験からいうと、予後の成績が一番不良なのは、窃盗など事件は重大でなくても幼少期から非行の味を覚えそれが習癖化し、13、14歳になってから施設に入ってくる子どもたちである。
少年院の入所年齢の下限をなくそうという意見の中には、現在の児童自立支援施設では、医療や心理的対応が期待できないから、医療少年院に送致すべきだというような意見も一部あるが、重大事件の14歳未満の少年すべてが医療少年院の対象になるとは私自身は思っていない。
被害者やその家族が加害少年の行為に対し、事件の重大性と罪を、心の底から反省してもらいたいと感じるのは当然である。少年院では、被害者の視点に立った教育をやっている。児童自立支援施設はやっていないじゃないかという指摘があるが、実際はやっている。

(3) 被害者の視点に立った教育のためには
児童福祉施設というのは18歳未満の子どもたちが対象である。だからこそ、14歳未満の重大事件を犯した子どもでも、児童福祉施設である児童自立支援施設に送致されるわけである。それぞれの子どもの適性に応じて、また段階を踏まえて、被害者の視点に立った教育を入れなければいけない。犯罪を受け止めるためには、児童自立支援施設のように、子どもたちが職員を心から信用できるものをしっかりと確立した後、矯正教育の矯正ではなく、あくまでも職員と一緒に生活する共生という経験が必要である。 
このような子どもたちの育て直しが児童自立支援施設の役割であるし、大切な使命ではないかと思う。

(4) 少年院はどうか
少年院の場合は、閉鎖的で、14歳以上の少年を収容し、集団的な規律、寮単位での集団生活が基本である。重大触法少年であっても、犯罪少年と比較すれば、家庭的な支援の必要な年齢である。国立武蔵野学院の昨年度入った少年の統計でいうと、一人親家庭が70%、両親そろっているのは20%である。少年院の場合は、これは逆転しているパーセントではないかと思う。
もう一つ、発達的に心身の成長が非常に未成熟なので、規則的な集団生活になじむかどうか。それに、自我が成長・発達していないから、触法少年児童自立支援施設の処遇を優先すべきである。それ以上に、自我の発達が未成熟な小学生に対しては、少年院送致では処遇が非常に困難と思う。学童期の児童は、情操の安定上いまだ家庭的な保護を必要とする年齢である。
しかも、触法少年の場合は家庭的に虐待経験が非常に多い。国立武蔵野学院は7年前に、全国児童自立支援施設の中でどの程度の被虐待児が入っているかについてアンケートを取った。全国児童自立支援施設では60%の子どもたちが何らかの被害を被っている。国立武蔵野学院の場合では83%の入所児童が虐待を被っているという結果が出ている。私自身の経験からいうと、ネグレクトという親の養育の拒否、怠慢が100%である。児童自立支援施設というのは被虐待児童が中心の施設で、その行動化が非行という現象に現れたということを先ほど申したとおり。

この後、上記各参考人に対する質問が行なわれた。

参議院法務委員会(開会日2007年5月15日)

政府参考人の出席を求めることを決定した。
少年法等の一部を改正する法律案(第百六十四回国会閣法第四四号)(衆議院送付)について修正案提出者衆議院議員早川忠孝君、同大口善徳君、長勢法務大臣、小渕文部科学大臣政務官及び政府参考人に対し質疑を行った。
また、同法律案について参考人の出席を求めることを決定した。

法務大臣が、政府案立法の経緯と提案の経緯を説明した。また、与党修正案についてその提案者がその趣旨を説明した。
質疑答弁は、以下。
「立法事実」とされる少年犯罪の状況について、かみ合う議論ではなかった。統計的には凶悪化や低年齢化はないのではなど質問したが、依然深刻な状況であると法務大臣法務省刑事局長は、「近年、低年齢の少年で凶悪事件が発生している。最近、ささいないきっかけで凶悪・冷酷な犯行が。動機不可解。少年自身説明できない。従前の少年犯罪と違う面ある」とした(注.ずっと以前からこのような事件はあった。・・少年犯罪データベース参照)。法務大臣は「国民の大多数は少年がひどいと聞いている。何か対応しろというのが国民の要請である」とした。
本法案全体について、野党議員(江田民主党議員)は、家裁や児童相談所のリソースが弱体化しており、これを強化する制度づくりを最大限努力すべきである。少年保護法制というのは、犯罪内容ではなく、少年の要保護性が高いか低いかでみるもの、と少年法制の根幹からみる必要性を強調。2000年「改正」がどうだったのかその状況を踏まえてからでよいとした。江田議員も民主党千葉議員も、少年については「育ち直し」が必要であって、少年が自分で育ち直しをする道筋を手助けするのが必要であるが、この法案はこの点疑問であるとされた。
警察の触法少年への調査権については野党議員から、「大阪地裁所長襲撃事件」等を引用しながら、主に、少年の権利保障の観点からさまざまな疑義が出た。触法少年の調査には可視化が不可欠ではと質問したが、政府委員の消極の回答。取調で机をたたくなどして虚偽自白に追い込んだ「大阪地裁所長事件」については、「係争中なのでコメントできない」とし、我々は規則・通達を遵守してきた、というのが警察庁生活安全局長の回答である。共産党仁平議員は、触法少年事件での捜索・差押等は刑事訴訟法を準用するのに、なぜ、少年への調査について、警察内部の通達・規則レベルの話だけで、(憲法上の権利である)黙秘権等の権利保障がないのか鋭く突いた。これについて従前から「刑事責任を追及するのではないから」を繰り返しているが、最高裁判例では、保護処分も不利益処分であるとしているのに、なぜかと質した。これについて、法務省刑事局長は、「たいへん難しい問題。そのような中で修正案で弁護士の選任権を入れた」と答弁(注.これだけではあまりに不十分)。警察庁安全局長は、この法案が通ったら、これを踏まえて(警察内部の)規則・通達を整備する必要があるかどうか検討するという程度の答弁しかしなかった。
少年院の下限年令については、民主党千葉議員が、1949年にそれまでの「おおむね14歳以上」の「おおむね」をはずした理由として、14歳以上の犯罪・虞犯少年と14歳未満の少年を同一に扱うことは適切ではない、14歳未満は児童福祉法上の施設で処遇するということであったが、この趣旨が今、本当に変化しているのかと質した。法務省刑事局長は、現在の少年非行の現状に鑑み、14歳未満であっても、凶悪犯罪や悪質な事件を繰り返すなど深刻な問題をかかえる者に対して早期に矯正教育が本人の改善のために必要で相当、開放処遇の児童自立支援施設では対応困難と考えるとした(注.このような少年も以前からいた。特に、1949年当時は、少年による殺人事件が今より数倍もあった時期である)。しかし、14歳未満は児童福祉上の施設の処遇の方が適切であるとして上記のようになったはずであるし、また、児童自立支援施設でも国立のように一部自由を制限でき、医療チームもある施設がある、だからなぜ「おおよそ12歳以上」で少年院送致可能になるのか理解できない、そもそも厚生労働省自身が、「育ち直しは福祉で責任をもってやるという覚悟」がなければ一番被害を受けるのは子どもではないかと鋭く追及した。
保護観察中の遵守事項違反による少年院送致について、これではまるで、保護観察は「執行猶予付少年院送致」ではないか、虞犯通告も活用されていないし、保護観察が充実できる体制づくりの方が先ではないかと野党議員から追及された。この遵守事項違反による「審判」では少年院等「施設収容」送致しか選択できない。保護観察中再度犯罪を犯しても、必ずしも少年院送致にならないのに、である。この辺の追及がほしいところであった。

地裁所長襲撃、少年に事実上“無罪”- 大阪高裁が差し戻し「重大な事実誤認」

2007年5月15日
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/39927.html
http://megalodon.jp/?url=http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/39927.html&date=20070518100359

地裁所長襲撃事件、少年院送致の決定取り消し 大阪高裁

2007年05月14日
http://www.asahi.com/national/update/0514/OSK200705140071.html
http://megalodon.jp/?url=http://www.asahi.com/national/update/0514/OSK200705140071.html&date=20070518100251

14歳少年の自白、信用性に疑義ありとして、少年院送致取り消し!

阪高裁は、2007年5月14日、2004年2月に発生した大阪地裁所長襲撃(強盗致傷)事件に加わったとして大阪家裁で少年院送致された少年(事件当時14歳)の抗告に対し、「(大阪家裁の)決定には自白の信用性などに疑義がある」として、大阪家裁の決定を取り消し、審理を家裁に差し戻した。これによって、少年は「非行なし不処分」(無罪に相当)とされる公算が大きくなった(少年事件の抗告は、「差し戻し」「他の家裁へ移送」しかなく、高裁で自判できない)。
この事件で、13歳から29歳の5人(少年3人、成人2人)が逮捕・補導された。成人2人は否認したが、少年らは全員「自白」した。
成人2人に対しては、2006年3月、「共犯少年3人の自白は圧迫的取り調べによるもの」「(13歳少年)にはアリバイがある」「5人の犯行はなりたたない」などとして、大阪地裁は無罪の判決を出した。
少年らは捜査段階で自白をし、既に保護処分が確定していた少年もいる。しかし、他の少年(当時13歳と16歳)も冤罪を訴え、保護処分の取消し(事実上の「再審」)等の申立てをしている。
阪高裁は、大阪府警が少年に「机をたたいて怒るなど、取り調べが妥当性を欠いた」と認定し、供述の誘導もうかがわれ、「自白の信用性に疑問がある」とした。共犯とされる他の少年2人の自白も、この少年の自白と整合性がないばかりか、自分たちに関する部分にも信用性がないとした。したがって、他の少年らも「再審」で「無罪」になる公算が大きい。

現在、国会で少年法「改正」法案が審議されている。触法少年に対する警察への調査権付与などがその内容であるが、これと密接に関係する事件である。
触法少年とは、14歳未満の少年である。成人でも自白強要され虚偽自白に追い込まれることは数々の事件が示している(最近では、鹿児島の「選挙違反」事件)。本件の決定は当時14歳の少年に対するものである。

少年法「改正」案については、与党修正案が衆議院で採決。この部分に関しては、付添人選任権を新設し、質問に当たっては、強制にわたることがあってはならないものとするなどを加えた。しかし、この規定だけでは、虚偽自白は防げない。調査において、供述拒否権などきちんと保障し、実際に虚偽自白を防止するさまざまな方策(調査の過程に弁護士が立ち会うは最低限のこと)が不可欠である。

共犯とされた13歳は、まさに「触法少年」である。この13歳少年は家裁に送致されずに、児童相談所から児童自立支援施設に送致された。つまり「有罪」認定されたのである。これに対し「犯罪少年」(14歳以上)と異なって抗告等の方法がないため、事実上の再審を求めて、2007年4月26日、児童相談所などを相手に国家賠償請求を提訴した。(⇒4月26日毎日新聞大阪夕刊記事)
この少年の訴えによれば、児童相談所の一時保護所に64日間身体拘束。その間、警察により、暴行や脅迫を伴う長時間の取調を連日受け、襲撃事件の自白を迫られたという。警察は、夕食時間が大幅にずれ込むような長時間の取調べをしたり、面談室で取調官が少年を怒鳴りつける声が執務室まで漏れてきたことがあったが、児童相談所の職員は誰も制止や抗議をしなかったという。これらは、児童相談所が警察に協力すれば、事実上身体を拘束した状態で時間的制約なく取調が可能であるという実態、児童相談所の上記逸脱した取り調べも制止しないという警察への協力の実態を示している。

このように、現在でも、触法少年に対する警察の取調実態はすさまじいことがわかる。これを少年法「改正」法案のように、法的に認知したらどのようになるか、よりそれらの危険が大きいというべきだろう。また、上記のように、事実上、取調には時間の制約がない実態も浮かび上がっており、この点についても、国会ではまったく議論がない。
これらの重大な問題が抜け落ちたまま法律をつくることは許されない。


(参考⇒4月26日毎日新聞大阪夕刊記事)

毎日新聞:大阪地裁所長襲撃:“有罪”少年、児相など提訴 「自白強要」550万円賠償求め

http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/news/20070426ddf041040010000c.html
http://megalodon.jp/?url=http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/news/20070426ddf041040010000c.html&date=20070517111235