2007年5月24日午後 参議院法務委員会

午後1時から始まり、午後6時過ぎ、与党修正案をもって可決された。本審議は以下。


 岡田広(自民党)議員は、これは厳罰化ではないとして、政府参考人に従前からの回答を繰り返させた。また、施設の充実、児童自立支援施設対処のケア(自立援助ホーム等)の充実、教員は派遣ではなく常勤の教員が必要ではないかなどを注文した。

 警察出身の松村龍二(自民党)議員は、「警察や法務省は冤罪者をつくってよいという立場でないが、社会が要求する治安にしっかりこたえなければならないという大きな立場がある。法制度も諸外国と違う面がある。したがって、諸外国で録音、録画が実施されているからといって、刑事司法制度が異なる我が国に直ちに導入すべきとも思われない。少年事件であっても事実認定をしっかりしてほしい、14歳未満の事件が起こっても、今までは保護だけが良いこととされ、起こった事件にふたをして事実認定に力を入れてこなかったことが現在の少年犯罪を生んでいるという被害者参考人の意見は大変貴重。こうした被害者の方の声を真摯に受け止めなければならない。調査手続において、取調べの全過程を録音、録画してしまえば、警察官の前でしゃべったことが全部公になるのではないかという疑念を少年に抱かせ、十分な供述が引き出せず、事案の真相が解明されないこととなり、結果として少年の健全育成に支障が生じるのではないかと思う」と言い、従前とおりの政府参考人の見解を引き出した。

 
 千葉景子(民主党)議員は最初に、裁判員制度の実施に向けての可視化についての法務大臣の考え方を尋ねた。長勢国務大臣は、「取調べの機能を害しない範囲で検察官による被疑者の取調べのうち相当と認められる部分の録音、録画を試行している。しかし、取調べ状況の録音、録画を義務付けることについては、取調べ状況のすべてが記録されることから関係者のプライバシーにかかわることを話題とすることが困難になるし、被疑者に供述をためらわせる要因となり真相を十分解明し得なくなる等の問題が指摘されている。結局、自白強要問題と同時に、犯罪逃れが非常にやりやすくなるということが起こっても困るという意味で、刑事訴訟手続全体をどうやるかという中で十分な議論をしていただきたい」と答弁した。

 次いで本法案につき千葉議員は、「今までの質疑答弁を聞くと、今の実務では何か困ることが本当にあるのか、変える必要が本当にあるのかという印象を持つ。凶悪あるいは衝撃的な事件があると、それにのって、今のやり方では駄目、厳しい対応策を取らなければいけないということに流されている危惧を持っている」とし、家裁への原則送致について質した。(注.この点に関してはこれまであまり質疑答弁がないので、ここで、やや詳しく述べる。)

 小津法務省刑事局長は、この趣旨として「重大な触法行為をした疑いのある少年については、非行の重大性にかんがみ、家庭裁判所の審判を通じて非行事実を認定した上で適切な処遇を決定する必要性が特に高い。重大事件については、証拠資料に基づいて非行事実の有無、内容を確定することこそが被害者を含む国民一般の少年保護手続に対する信頼を維持するために必要であり、家庭裁判所の審判手続においては、被害者等は記録の閲覧及び謄写や、意見の陳述を行ったり審判結果等の通知を受けることができるため、被害者保護という観点からも、少年法が定める家庭裁判所の審判手続によって事実解明等を行う必要があると考えられる」と答弁した。

 これに対し、千葉議員は、「これまで児童相談所が福祉の観点からどのように扱うのが一番いいのかということを考え、家裁に送致した場合もあった。児童相談所の先議権で柔軟な手続も取れてきた。原則家裁送致という規定にしてしまうと、児童福祉機関の裁量権や先議的な調査が非常に硬直化し、児童福祉的な観点が形骸化していくというおそれがある。原則家裁送致制度は、現行法の児童福祉機関の先議的な裁量的な権限、そういう立場にあるのだということを否定をするものか。それとも、その原則はきちんと大事にしながら、一定、家裁の関与範囲を広げようという趣旨なのか」と質問。

 小津法務省刑事局長は、「一般論としては、低年齢の少年については児童福祉機関の措置にゆだねることが適当な場合が少なくないと考えられるので、本法案においてもこの点については何ら修正を加えていない。但書きにおいて、児童相談所における調査の結果、家庭裁判所送致の必要がないと認められるときは、家庭裁判所送致以外の措置をとることができるので、家庭裁判所送致の必要性の判断について児童相談所長等の裁量を認めている」と形式的に答弁。但書きの具体例は、「例えば、少年の心身の発達の程度が非常に不十分で、しかもそのやった事柄の動機や態様、刑罰法令に照らせば重大な犯罪に当たるような行為であるが、その実質を見ていくとそれほど悪質、重大とは言えないような事案が考えられる。共犯事件において、当該少年の関与の程度は非常に低いということが明らかになったような場合なども考えられる」とした。

 村木厚生労働省大臣官房審議官は、「今回の法改正においても児童福祉機関先議の原則は変わらない。形式的には重大な罪に該当する場合であっても、実質的には非常に加害児童が幼かったり、あるいは行為の態様や結果が軽微であるとか、あるいは事実関係が非常にはっきりしているというようなケースであれば、児童相談所の判断として、家庭裁判所での手続によって子どもに負担をかけるよりも、児童相談所限りで判断をすべきというような事例はそのように判断をしていくということになる」と法務省とややニュアンス的には異なる答弁をした。また「実際に家庭裁判所に送られるケースが増えるかどうかという点に関しては、重大事案に当たるかどうかというようなことを判定をする機関ではなかったので、こうしたケースのうちでどれだけを家庭裁判所に送ったというところの数字的に申し上げるデータがない。今回の法改正の趣旨は、重大犯罪については他の触法事件に比べても内容が複雑で、多角的な観点から慎重な事実認定を行うことが必要であるケースが多いということ、重大な触法事件については真相を解明すべきという社会的な要請が強いということ、そういった法改正の趣旨も踏まえながら、具体的な今後の取扱いについて検討していきたい」と答弁した。

 それに対し千葉議員は、「双方の答弁を聞くと、何で今度この原則送致という規定が入ったのかいま一つ分からない。結局は、その主導権を警察の側に取らせるということにしかすぎないのではないか。その意味で、この規定を削除することも必要。事案の解明が必要だという要請があることは知っているが、こういう形ではなくしても可能な問題である」とした。

 次いで、千葉議員は、「法的な意味や目的は違っても、調査と捜査は、いずれも事案の解明で、主体は警察ということで共通する。しかし、子どもの健全な育成、そういうことは警察が判断するものではなく、児童福祉の観点で判断をすることである。それをするために警察の調査で事実を解明をしておこうというがこれが調査なのか」と質した。
 小津法務省刑事局長は、「児童相談所による調査は、児童や保護者等にどのような処遇が必要かを判断するために主に児童福祉司や相談員が中心になって行うもの。児童の状況、児童の家庭環境、児童の生活歴や生育歴、過去の相談歴、地域の養育環境等の事項を調査するものであり、非行事実の有無や内容の解明を直接の目的とするものではない。警察による調査は、当該少年の抱える問題点に応じて最も適切な保護処分を選択することができるように、少年の非行事実の存否やその原因、動機等を含む内容の解明を中心として行うものであり、その調査結果は、現在でも児童相談所家庭裁判所の判断資料として活用されている。今回、警察の調査権限を法文上明記したが、警察の調査の性質や児童相談所家庭裁判所の判断資料として使われるという点については変わりがない」と答弁。

 千葉議員は、「そうすると、今の制度の中でも十分にやられていることにプラスして、特段に警察の調査という権限、しかも捜査とは違うんだというものを規定するという意味は改めて一体何なのか。調査は児相にはやらせないで警察がやるという趣旨なのか。それとも、児相の調査はあるが、それに少しお手伝い、より一層事案の解明ができるように警察もしっかり手伝いをしようという趣旨で盛り込まれているものか」と質した。
 小津法務省刑事局長は、「警察の調査と児童相談所の調査の関係、それから家裁の審判における調査との関係が変わるものではない。警察の触法少年に関する調査それ自体が少年法の中で明文をもって定められていないので明文ではっきりさせるというのが一つ。そして、一定の重大な事件については、警察は触法少年児童相談所に送り、児童相談所は原則として家庭裁判所の方に送るという仕組みをつくった、ということが異なる。警察の調査で果たすべき役割と、児童相談所の調査で果たすべき役割と、家庭裁判所に行ってから家庭裁判所で全体として総合的に調査をする、こういうような役割分担。そのことは新しい制度においても変わりはない」とした。

 千葉議員は、「新しい制度でも変わらないということであれば、何故そういう規定が必要なのかわからない。今の説明によると、これからも警察の調査は、児童相談所の意向を尊重し、例えば児童相談所の方で、もう警察の方が触ってくれるな、子どもに悪影響があると言ったら控え目にするのか。児童相談所の児童福祉という観点を十分に考えながら、その意向に反するような形でこの調査というのが行われるということはないのか」と質した。

 小津法務省刑事局長は、「児童相談所の方に事件が警察から送られてきた後というのは、警察としてはやるべき調査を尽くして児童相談所に送るわけなので、本来的にはそこで警察の調査は終わりということになる。ただ、警察が関連のことをやっていくと、全く新たな証拠が出てきたということで追加して児童相談所の方に送ることはある。その段階では既に児童相談所の調査という段階に入っているので、そこのところは十分児童相談所と協議、児童相談所の調査の妨げにならないということも十分配慮しながら、言わば例外的に行われることになると考えている」と答弁。

 千葉議員は、「調査とは言うけれども、実態としては捜査というものに性格的には重なっていく気もする。一体、調査に当たるのは警察ではどういう立場の方がこの調査というものに当たるのか」と質問。片桐警察庁生活安全局長は、「調査に当るのは、実態的には警察官が中心。警察官以外に少年補導職員という長年少年問題に携わってきた専門家も一緒に調査に当たる。事案の解明ということについては警察官が長けているので、事案の解明については警察官が中心。その背景にある非行の原因であるとか少年の特性についての具体的な調査は少年補導職員が長けている部分があるので両者相まって事案の解明、非行の原因の究明に当たっていく」と答弁。

 この答弁に、千葉議員は、「何かだんだん分からなくなってくる。事案の解明と、少年の保護や心理的状況とか非常に幅広い。それは警察の本来の役割なのか。児相では専門性を持った方が調査に当たってきた。少年の保護に期するかという面ではむしろ児相の充実を図っていくという方が理にかなっている。これまでのように児相が中心になり、事実の解明という面では児相だけではなかなかできないところがある部分を警察の力もかりて事案を解明するという、これまでのやり方で充実をしていくというこが理にかなっている。答弁をみると結論的には従来やってきたことを法案の中で明確にした、それだけなんだと、それにすぎないというふうに考える。児相の方が主体的に調査を行うようになったら、当然のことながら児相の要請とかあるいは児相の意向に反してとんでもないことを行うようなことはないんだというふうに受け止めさせていただく」と述べた。

 片桐警察庁生活安全局長が、「14歳未満の少年の犯行であることが明らかなケースでは犯罪捜査ではないので、捜索等強制処分権限が認められてない。これまでは触法少年本人や保護者の協力を得て証拠を提出いただいた。しかし、協力が得られないケースがあった」と述べたので、千葉議員は、「家宅捜索等で教育現場にも強制的な権限を行使をしていくということもあり得るので、この辺は、非常にデリケートなところに対する配慮ということもまた必要になってくる」と述べた。

 次いで、千葉議員の少年院送致に関し、「14歳未満の少年について、特に必要と認める場合というのは一体どういう場合があるのか」という質問に対し、小津法務省刑事局長は、「少年自身について非常に性格に深刻な、かつ複雑な問題があって殺人等の凶悪重大な非行に及んだような場合、そして開放的な処遇を基本とする児童福祉施設の中では処遇をすることが困難であろうと思われるケースである」と答弁した。千葉議員の、「小学生を入れることについて大臣の見解を改めて聞きたい」としたのに対し、長勢法務大臣は、「「改正」が行われたとしても、14歳未満の低年齢の施設内処遇は児童自立支援施設等の児童福祉施設で行うというのが原則であって、あくまでも例外的な場合に少年院送致が許されるものとなる。小学生であるからというだけで少年院送致はできないというふうに考えるのは適当ではないが、判断に当たっては、少年の年齢も考慮されると考えるのが当然だろうと思う。したがって、実際には小学生が少年院送致の処分を受けるということは、“相当まれ”だと思う」と回答。初等少年院の矯正教育の在り方、今後の方向性など、法務省の方で考えはという千葉議員の質問に対し、従前答弁した男女教官組の「擬似家庭」処遇を繰り返した。

 さらに、千葉議員は「保護観察中の少年に対する措置について質疑した。まず、少年院送致を求めるその手続。小津法務省刑事局長は、遵守事項違反の程度が重い場合とは、違反のあった遵守事項の内容ごとに少年の遵守事項違反の態様や指導内容及びこれへの対応状況等を総合的に判断して、保護観察によっては本人の改善更生を図ることができないと認められる程度の場合をいう。典型的な場合として考えられるのは、保護観察官や保護司との接触にほとんど応じず、あるいは接触に応じても虚偽の申告を繰り返すなどして生活の実態を明らかにしようとしないなど、保護観察の意味を失わせるような態度を取り続けるような場合である」と答弁。そして、「保護観察官等との接触に応じないなどの事情でその少年の生活状況等が十分に把握できない場合には、仮に実際は少年に虞犯事由があっても分からない。今回の要件と虞犯通告の要件が異なる。新制度は、保護観察によってはどうしても本人の改善更生を図ることができないということであるので、保護観察をしている立場からすると、何とかその保護観察の枠組みの中でやろうと努力をして、本人に対して警告を発して、それでもどうしても駄目だというときにこちらの手続にのせるということであるので、虞犯通告とは異なる面がある」と答弁。

 千葉議員は、「虞犯事由がない程度でも少年院送致ということがあり得る。社会内で保護観察という形で最終的な保護処分というのが選択をされ、その中で少年の保護を図っていこうということなのに安易に少年院に送致をするという手法が取られてはならない。保護司の信頼関係をつくって頑張ろうという気持ちを阻害することがないように、保護司に責任を負わせるような形になるのでは本来の保護観察の制度に保護司の活動を無にするような結果になりかねない。この最終的な責任というのは保護観察所が負っていくということになる。そうなると保護観察官の責任は大変。今の状況だと、本当に一人一人の少年をどの程度よく細かいところまで見ることができるのかと心配。保護観察制度の実効を向上させるには、保護観察官の増員も不可欠な条件」と述べた。長勢法務大臣は、「増員ということが一つの壁。今までもこの増員に向けて努力をしてきたが、今後も必要な増員の確保に全力を挙げていきたい」と答弁した。

 最後に千葉議員は、少年問題を考えるには、児童福祉の分野の強化充実が不可欠であるとした意見に対し、村木厚生労働省大臣官房審議官は、「今虐待の件数が非常に増えたことで、相当体制の充実強化が必要だというふうに考えている。この中核になっている児童福祉司の配置の数を増やしていくことが非常に大事、更に努力をしていきたい。一時保護施設の定員超過の状況を改善したい。児童自立支援施設に関してはキャパシティーの方はそれなりにあるので、ケアの質のところが非常に大事だというふうに思っている。検討会も開いて去年の2月に報告書が出たが、これを基にしてケアの向上を図っていきたい。法務省厚生労働省との間で交流連携をし、充実強化をしていきたい」とした。千葉議員は、「事案の解明は大事。しかし、何といっても少年に対する基本的理念とは、被害を受けた者も被害を及ぼし者も改めて育ち直して、育ち直りをしていくと。ここが共通点。そういう運用をしていただきたい」と締めくくった。

 
 木庭健太郎(公明党)議員は、虞犯への警察による調査権限の削除についてその趣旨を確認し、長勢法務大臣が、その趣旨・経緯を説明した。

 また、木庭議員は、触法少年への警察の調査官の対象となる少年が、触法少年である疑いのある者から、客観的な事情から合理的に判断して触法少年であると疑うに足りる相当の理由のある者にここは修正されたが、具体的に、これを修正したことによって対象となる少年の範囲が結果的にどのように変わることになるのかと質問した。小津法務省刑事局長は、「政府提出法案においても、合理的根拠に基づいて疑いのあると認められるということが前提であるので、この修正は調査の対象となる触法少年の範囲について政府提出法案の内容をより明確に文言として表したもの。調査の対象となる少年の範囲に実質的な差異は生じない」と答弁。

 木庭議員は、「冤罪を生じさせない措置の問題として、どうしても、14日の大阪高裁の判決が頭に引っ掛かる。高裁の決定では、自白の信用性について、取調べ官が取調べ中に机をたたくなど穏当を欠いたと、明確に指摘をしている。このような冤罪を生ずるおそれがある以上、触法少年に黙秘権の告知を義務付けるなどの適正手続の保障の問題、取調べの過程を録音、録画する必要があるという意見が出てくるのは当然のこと。参考人も、ここについてはやはり可視化も含め何らかの措置をきちんとする必要があると様々な意見があった。冤罪を生じさせることがなく、触法少年に対する任意調査の適正をどう確保していくのか、これが一番大事な課題」としたが、小津法務省刑事局長は従前の説明を繰り返した。

 次いで、木庭議員は、「保護観察中の少年の措置の問題は、保護観察官や保護司の指導監督機能を強化させようということの趣旨なのか、保護観察の実効性を高めるためにはこういった制度がどうしても必要と感じているのか、一体どういった趣旨なのか」と質した。藤田法務省保護局長は、「少年にとっても、又は一般的にも遵守事項の重要性ということが明確になる。少年に遵守事項を遵守することの重要性というものを自覚させることができる。したがって、保護観察の実効性は高まっていく」と答弁。木庭議員の、「手を焼いているというのもあるが、保護観察が色々機能している面もある。そこで、全体の枠の中にこの少年院等送致という制度を大枠として入れた場合に、子どもたちに対する影響というのが出てくるのではないか。実際にこの制度を導入することで、これまでつくってきた保護観察の対象少年と保護司、保護観察官との信頼関係の構築が損なわれるのではないかという意見が幾つか実際に出されているが、その危惧はないか」と質したのに対し、藤田法務省保護局長は、「少年に対して遵守事項を遵守することの重要性というものを自覚させ、保護観察を受けるということの重要性を認識させることができる。少年自身に主体的に保護観察を受けようという意識というものをより一層喚起することが可能になる。それを踏まえて、保護観察官や保護司が厳しい中にも温かい心を持って根気強く指導を続けていくと、少年との間に信頼関係はおのずから構築されて、深められていくということが一層容易になるというふうに考える」と答弁。木庭議員の、「そこまでやるためには何が必要かというと、人が足りないという議論になる。今、保護観察官は約650名。年間の対象者が約6万人。いま言ったきめ細かいということになったら、大変な話。具体的にどのようにして増員するのか」と質問した。藤田法務省保護局長は、「2006年度に45人の増員、2007年度に43人の増員。約650人が保護観察事件を担当しているが、それに加え、保護観察所などの課長職をつぶして130人をプレイングマネジャーということにした。実力を強化するということで、研修体系も見直すなど総合的なこともやっていきたい」と答弁した。

 木庭議員は、「児童自立支援施設送致とするか少年院送致とするか、家庭裁判所における判断基準は何か」と質問。二本松最高裁判所長官代理者は、「少年に対してどのような保護処分を行うかの処遇選択は、個々の事案に応じた各裁判官の判断であり、判断基準という形で申し上げることは困難。一般論としていうと、家庭裁判所は従前から、非行の内容、非行に至る動機、少年の年齢や心身発達の程度、少年の性格、環境等、さらには少年院と児童自立支援施設等における処遇の内容の違いなどを十分考慮した上で、少年の改善更生のために最も適切と考えられる処遇を選択してきているところ。今回の法案においては、その趣旨を十分に踏まえ、慎重な判断が行われるものと考えている」と答弁した。
 

 仁比聡平(共産党)議員は、児童相談所における調査は、これは単なる方針を決めるためだけを目的としたものではなく、すべてを包括した調査そのものそれ自体として、援助という面も有しており、そこに専門性があるのではないかと質した。村木厚生労働省大臣官房審議官は、「児童相談所が児童に接する場合、一番最初のときは、適切な援助方針を決める前のアセスメントに当たる部分というのが入口の部分。しかし、何らかの援助が必要ということで児童相談所に来られる児童がおり、様々な心理的な負担を感じていたり問題を抱えていたりということがあるわけなので、アセスメントであっても面接を始めとする対応に当たってはその児童の状況に応じた援助的視点を含んだ対応になる。また、その後、その援助方針が決まった後、在宅で過ごす児童が定期的に児童相談所に通ってきて児童福祉司等と面談をするというようなケースについてはまさしく援助である」と答弁した。

 仁比議員は、「先ほど千葉議員の質疑の中で、送致の意義、あるいは警察の調査とこの児相の調査の違いというような形で答えた。これまでと児童福祉先議主義という点では変わらないと言ったが、先ほどの警察庁の答弁も聞いていて感じたのは、結局、触法の少年について警察が事案の解明を徹底してやって、児童相談所に送致をする。児童相談所の判断は、法律の提案の構造でも奪われているわけじゃないと思うが、結局、事案解明の名の下に少年を取調べの対象にして、その結果を児童相談所に送致をする。児童相談所は、一定重大の事件については原則家裁送致、そういう構造になっているのではないか。児童福祉の先議主義を後退させるものではないというが、実際にそういう形に運用されていくとしたら、謂わば“警察捜査前置主義”、先ほどの答弁を伺うとそういう形になるのではないかと思ったが、いかがか」と質した。小津法務省刑事局長は、「あくまでも一定の重大な事件について、新しく警察が送致という手続を取ることになるわけだが、このことによって、物的な強制手続を除けば基本的な警察の調査の性格が変わるものではない。警察の調査と児童福祉機関の調査の関係、それからその先、家裁に行きました場合の家裁の調査との関係も変わるところはない」と答弁した。

 それに対し仁比議員は、「本当にそうか。法律の組み方としてはそうはなっていないというふうに局長は言いたかったかもしれないが、全体の答弁の趣旨からすれば、これまで警察の調査権限が14歳に満たない子どもたちに対しては明記をされていなかった。したがって、対物処分はもちろんだけれども、調査として事案解明のためにやらなければならないことができにくい状況があった、あるいはできない状況があった、だから今回の改正をするわけである。ということは、これまでできなかったことをやれるというわけである。加えて、児童相談所の調査では事案解明には足りないと言うのだから、警察が少年警察の分野において14歳に満たない子どもを相手に、今局長が言ったような従来から変わらないなんということはあり得なくて、どんどん範囲が広がるということになりかねないじゃないか」と質した。小津法務省刑事局長は、「現在、警察の調査権限が少年法上明文化されていない。また、対物の強制調査ができないということによって調査に支障が生じていると認識している。しかし、例えば対物強制手続ができることによって、これまでは全く警察が無視をしていたというと、警察はこれまで非常に色々な形で苦労をしてやっていて場合によっては事実関係の解明が不十分なままに、この少年を放置していてはいけないということで児童相談所等に通告をしていたような事案がある。これが、よりきちんとした事案の解明の下にその先の手続に役立ててもらえることになる。そういう関係になる」と答弁。

 仁比議員は、「少年警察活動の在り方がこの委員会でも大変な問題になっていた。今、小津局長が言われたようなことが「改正」後になるという保障がどこにあるのか。大阪の地裁所長襲撃事件の問題が取り上げられたが、こういう少年に対する冤罪事件というのはこれまで数々引き起こされてきた。それに対して警察は、そのたびごとに反省を口にしながら繰り返してきた。その少年警察の在り方を正すことこそ先決ではないか。その点についてのこの法案提出者としての局長の意見を聞きたい」と質問した。小津法務省刑事局長は、「警察における調査手続が適正なものでなければいけないという観点から、本法案でどのような内容を盛り込んだか、また衆議院での修正でどのような内容が盛り込まれたかということについては既に説明した。その中で、修正により付添人という制度が入ったことは非常に大きな意義があるのではないかと考えている」等と、仁比議員の「少年警察の在り方を正すことが先決ではないか」との見解を求める質問に対し、2回に渡ってはぐらかした。仁比議員は、2回も答えないということは、これまでの冤罪を引き起こしてきた少年警察活動の在り方を是認するという立場になると追及したところ、小津法務省刑事局長は、「少年事件のこれまでの捜査や調査につき裁判所において色々な指摘がなされているということは重々承知している。繰り返しになって恐縮だが、この法案では条文上は明らかにしているが、今回の法案の内容を踏まえてマニュアル等々で趣旨を全国の警察に徹底していくということであるので、その作成については私どもも十分協力していきたいと考えている」と他人事のように形式的に回答した。

 仁比議員は、「裁判所において指摘をされてきたことを承知しているなどという答弁は本当に信じ難い。裁判所でそういった判決が下されて、メディア的にも重大な問題として報じられるケースはごく一部。私自身が付添人活動をしてきた経験の中だって、あり得もしない目撃証言がとうとうと何十通もの調書になって、それが少年を少年院送致にする根拠として提出をされ、それが使われようとする。その疑いを晴らすために、少年も家族も付添人もどれだけ苦労しているか。何でそんな目に遭わすのか。そこを正すことなしに、刑事罰の適用を目的とした手続ではないからなどというような形式論理で、少年警察活動の権限の拡大を図るという法案を提出するその感覚が理解できない。実際に改悪後に14歳に満たない子どもに対して不当な取調べが行われた、そういうことになったら、どのように責任を取るのか。実際にそういう取調べが行われれば、後からそれが冤罪であるということが明らかになったとしても、低年齢の子どもに対しては重大な傷が残る。そういう立場に低年齢の子どもを置いてはならない。そこも少年法の大切な理念だったのではないか。その点について大臣に尋ねたい」とした。

 長勢法務大臣は、「今回、調査権限を明確化すると同時に、今局長が答弁しているような色々な手だても講じている。警察当局においても、それに沿った形で、適正な形での調査活動を実施してもらわなければならないと思う。一方、ずっと前から地元から言われていることは、「最近の子どもというのは、悪いことをしても注意をしても、警察に言ってみろと、警察は手は出せないと言っていて、これは何とかしてもらわないと町の治安が守れない」という苦情をたくさん聞かされた。警察の調査活動が問題を起こすことがあってはならないと同時に、国民が安心できる社会をつくるということも大事なこと」と答弁した。仁比議員は、「市民警察として警察が治安を確保してほしいという住民の期待にこたえるべきだというのは当然のこと。そうではなく、実際に数々の冤罪事件が起こっているのに、現実に、その中で、14歳に満たないその低年齢の子どもたちをその取調べにさらすということをやって本当にいいのかということを尋ねている。マニュアルを警察に任せて作ってもらうということでは解決はできない、問題点は解消されない。本来、この点について徹底してこの委員会で審議を尽くすべき」と追及した。しかし、小津法務省刑事局長 前同様の見解を繰り返した。

 次いで、仁比議員は、「保護処分という(最高裁でも不利益処分とされた)不利益処分が発動されるという可能性を持って進められるのが少年に対する調査。なのに、警察の調査において付添人の選任権の告知の義務すら答弁の中では認めないというのはなぜか」と、再度を追及したが、長勢法務大臣 従前同様、刑事責任を問われる可能性がない、身柄拘束を伴うこともなくあくまでも強制力を伴わない任意によるものであるからと繰り返した。

 仁比議員は、「親や家庭環境の関係で子どもの非行がある。その親が弁護士に依頼するか。それなのに、その子に付添人選任権すら告知をしないというのは理解できない。子どもに付添人選任権や不利益な事実を述べることを強要されないということを伝えたからといって、どうして真摯な話ができなくなるのか。権利保障が告知をされるということと、子どもたちが本当のことを自分の心情から話すようになるかということは、別の問題。そこを一緒にして、告知をしたら、権利を保障したら真相解明ができなくなるという言い方は絶対に納得できない。憲法の適正手続を理解していない議論だとしか思えない」と述べた。

 仁比議員は最後に、1990年に国連総会で採択をされた社会内処遇措置のための国連最低基準規則(東京ルール)があるが、大臣はこれを御存じかと尋ねたところ、長勢法務大臣は「よく分からない」と回答。仁比議員は、「この中には、保護観察、社会内処遇の在り方について、そのルールとして、「対象者が遵守すべき条件、これは実践的であり、明確であり、かつ可能な限り少なくなければならない」と、つまり、達成可能な特別遵守事項じゃなきゃ駄目だという。そして、「違反が自動的に拘禁処分を科すことになってはならない」と定められている。これは少年に対する保護観察が本人の自覚、自立を基礎として保護司を始めとしてその信頼関係の中で行われるべきものだということからすれば当然のことだと思う。「改正」後は、このような特別遵守事項たり得るのか。ここにある理念を踏まえて聞きたい。今回の法改定で特別遵守事項違反、これを少年院送致に結び付けるということになっていけば、保護観察所は、担当の保護観察官が責任を負って、保護観察の対象者が遵守事項に違反したという事実を明らかにする責任が生まれることになる。それは、その義務を果たせなかったということについて少年の側に正当な理由はないと、つまり、守れたはずなのに守れなかったということを明らかにし、かつ、保護司も含めて、保護観察を実施する側、実施者の方には、その過程において瑕疵がなかったと、扱ってきた方の責任ではないということを立証する必要がある。けれども、実際には、保護観察所は、一人の保護観察官が成人も含めて100件近い対象者を担当している。少年事件の対象者の処遇に必ずしも十分な人手と時間を掛けられる体制にはない。そこでどうしてその子の更生のために本当に的確な特別遵守事項を定めるということができるのか。それをずっと追い掛けて少年の処遇を見守るということができるというのか。もしこれが、体制の上でできない、十分な処遇を行える保証がないままこれやるとしたら、処分の厳格化を図るこの法の改定がかえって保護観察の幅を狭めてしまう。正に少年院に送致するぞという威嚇によって子どもたちを律しようとする、これまでの信頼関係に基づくものから威嚇、これを本質とするものに変わるじゃないかという懸念が出るのは当然」と質した。

 藤田法務省保護局長は、「東京ルールズは承知している。今回の「改正」により、特別遵守事項は裁判所の意見を聞きそれを尊重しつつ保護観察所において決定する。恣意的な特別遵守事項を作るということはしない。特別遵守事項の違反があるかどうかきちんと把握し、その程度が重いということが確認できなければ、保護観察所長は家庭裁判所に対する新たな保護処分の求めることはしない。保護司と保護観察官との連携協力を密にし、保護観察官が特にこの分野については心して直接の確認を十分にするというやり方をもって遺漏なきを期したい」と答弁した。


 近藤正道(社民党)議員は、「「少年警察活動推進上の留意事項について」という警察庁の通達は少年事件の捜査、調査のルールをある程度内部的にマニュアル化したもの。「非行少年と面接する場合においては、やむを得ない場合を除き、少年と同道した保護者その他適切な者を立ち会わせることに留意することと」という規定がある。これはどの程度警察実務の中で履行、遵守されているのか」と質問した。片桐裕警察庁生活安全局長は、数値的に調べたものがないので確たることは申し上げられないが、触法少年についてはある程度立会いが行われていると聞いている、と回答。近藤議員は、これが守られていないという話が公の場で出てくるから聞いているのだと追及すると、片桐警察庁生活安全局長は、結びは「留意する」と書かれてあり、決して義務付けているものではないと開き直り答弁。近藤議員は、「この通達は「原則立会い」とはっきり言っている。原則と例外を警察が勝手に入れ違うからその実態がどうなっているか分からなくなっている。現にこうやって通達が今でもある。今度は警察が根拠を明確にして一定の権限を持つ、対物の強制権まで持つ。憲法の趣旨からいけば当然であるが、通達の趣旨からいってもこれを足掛かりにして、今度の「改正」に伴って少なくとも触法少年の保護規定は制度的にきちんと行わなければならないと主張するのは当然のことである」と追及した。片桐警察庁生活安全局長は「最後は留意することと書いてあり、決して原則立ち会わせなさいという結びにはなっていない」とまたも開き直り答弁をした。

 近藤議員は、非常に勝手な、都合いい解釈であると批判。そして、この面会の立ち会う“適当な大人”の中になぜ弁護士付添人が入らないのかと質問したが、片桐警察庁生活安全局長は、これは例示であって、弁護士たる付添人についても必ずしも排除されるものではないとした。だが、近藤議員の「現在でも、触法少年の調査、つまり面接に立ち会いたいと弁護士たる付添人が言った場合には、原則これは応ずる、立会いを認める、これがそうするとルールだというふうに理解してよろしいか」との質問に、片桐警察庁生活安全局長は、「少年に無用の緊張を与えることを避けることに資する、真相の解明に協力をいただける、また事後の効果的指導育成に効果があるとかというようなことを判断をして立ち会っていただくかどうかを決定するわけなので、付添人が立ち会いたいといっても必ずしもこの趣旨に合致するわけではない。この趣旨に合致するのであれば立ち会っていただく」と答弁した。近藤議員は、「付添人の立会いを認めるか認めないか、それ警察が判断するのか。本人も希望、保護者も希望、付添人弁護士も希望している。そのときに、警察が勝手に、いや今はまずいと、そんなことできるのか。今のこの通達でも、立会い認めなければならないし、更に警察の権限が実質的に強化されるわけだから、法律、最低でもマニュアルの中にこの規定は、調査・面接に弁護士である付添人を立ち会わせる、この原則を明記すべきじゃないか」と追及した。片桐警察庁生活安全局長は「少年本人ないしは保護者が、付添人がいなければ面接させないということであれば、立ち会っていただくということになる」と回答したが、任意の活動であるから立会権はなじまないと回答した。近藤議員は、「例えば子どもが拒否をしている等は別として、一般的に特段の事情のない限り同席は認める、そのことを警察内部の通達あるいは規則に明記する方向で検討していただきたい」と述べたところ、片桐警察庁生活安全局長は、「今の通達の中に立会いに関する定めを置いているが、この立ち会っていただく方の中に例示として付添人を入れることについてはやぶさかではない」とした。

 次いで、近藤議員は、「冤罪事件はひどい状況。せめて触法少年については可視化について別格で議論してもいいのではないか。国連の拷問禁止委員会の最終報告が出、捜査の可視化をやらねばならないと言っている。触法少年については先行して可視化はすべき」と述べたが、片桐警察庁生活安全局長は、法務省刑事局長同様、十分な供述が得られないおそれがある等の従前の消極論を展開した。近藤議員は「全く説得力ない。可視化されたから真実を話さないなんて、そんなことはあり得ない。警察が勝手な取調べができなくなる、都合が悪いと、その一点以外の何物でもない」と述べた。

 さらに近藤議員は、少年院収容下限年齢14歳を定めた科学的な根拠と14歳未満がなぜ自立支援施設なのか科学的な根拠と成果について尋ねた。

 小津法務省刑事局長は、「制定当時の少年院法では、初等少年院及び医療少年院はおおむね14歳以上の者を収容するとされていたが、1949年に少年法児童福祉法の改正と併せて少年院法の改正が行われ、その際におおむねの文言が削除された。この1949年の改正法案の提案理由説明では、“14歳に満たない少年は、これを14歳以上の犯罪少年又は虞犯少年と同一に取り扱うことは適切でなく、もしこれに収容保護を加える必要のあるときは、すべてこれを児童福祉法による施設に入れるのが妥当であると思われ、またその少年院の運用もその方が一層効果的になるので、14歳未満の少年は少年院には収容しないこととした”旨の説明がされている」と回答。村木厚生労働省大臣官房審議官は、「児童自立支援施設は非常に長い歴史を持っている。その経験と児童福祉・心理の専門家と非行という問題を抱えた児童の育て直しについて様々な検討をしてきた結果として、一般に特に年齢の低い児童については、一つは健全で自主的な生活、枠のある生活というのを保障していくということが非常に重要である、子どもが愛されて大切にされているという実感を持つこと、自分に対する肯定感を持てるということにつき、こういう家庭的、福祉的なアプローチが有効である、ということである」と回答した。

 それに対し、近藤議員は、「元々は矯正教育にはこれを理解できる年齢というのがあるんだ、そこに達しない人たちは愛着の形成に力点を置く。そういうふうにやってきたのに、それがどうして一挙に3年もずれてくるのか」と与党修正案提案者(大口善徳議員・公明党)に確認した。大口議員は、「少年院で処遇する場合もある程度ターゲットを絞らないときめ細かな処遇ができない。中学校入学年齢が一つの目安になる。ただ、弾力的に少年に合わせた処遇も必要。一応12歳という線を引いて、“おおむね”をつけた」と説明。そして、「小学生というだけで本当に少年院という選択肢をなくしていいのか。開放処遇になじまない者がある。閉鎖処遇の下で高度の医療的なケアをする必要もある」と述べた。さらに大口議員は、「最終的には家裁がその少年にとってどちらの処遇がいいのか判断する。私は基本的には児童自立支援がいいと思いますよ。だけれども、稀なケースとしてやはり少年院で対応しなきゃいけない場合もあるだろう。その選択肢をやはり奪うわけにいかない」と説明した。

 これに対し近藤議員は、「参考人できた徳地元武蔵野学院院長は、一人14歳になって少年院に移したのはいたが、自分の長い人生の中で基本的に問題はなかった、うまくやっていけたということを言っている。だから、この話は、児童自立支援施設の方から出てきた話ではなくて、何か特異な事件が起きて、“こんな子を開放処遇等の開放施設に入れておくのか”という言わば世論に押される形でこの法案・立法事実が出てきた」と述べた。それに対し、村木厚生労働省大臣官房審議官は、「徳地先生など経験者からもたくさん話を聞いたが、非常に苦慮をするケースというのは、暴力性が非常に強い、性格として極端に共感性に欠けて職員との情緒的な関係が育ちにくい、そのために暴力行為が繰り返して起きるというような非常に困難であるという事例が、数は本当に少いがあることもまた事実。より良い選択ができるような仕組みというのを考えていかなければならない」と回答した。しかし、近藤議員は、「参考人で出てきた徳地さんはそんなこと言ってない。衆議院参考人奥山さんだってそんなこと言ってない。廣瀬さんだって言ってない。皆、開放だからなかなか大変だ、しかし、国立の二施設は、開放であるけれども部分的に閉鎖的なそういうものを内部に持っている。だから、強制措置を付けてくれればそれは対応できる。国立であれば医療スタッフもそれなりに備わっている。また、児童自立支援施設に対応できないような子どもなんていうのはそうたくさんいるわけじゃない。1年に正に数えるほどしかいないし、全部それは国立の二施設で十分対応できる。対応できないのなら、むしろ国立の二施設を更に充実強化をすればいい。これが、皆の話。厚労省に一体だれがそういうことを言うのか。そういう話は全然ない。この質問の事前の調査をする際にも、私が聞いても、そんなことはありませんとみんな言っていた。ところが、「改正」法案審議の場に立つと、いや少数だけれどもあるんだという」と追及。そして、「厚生労働省は、児童自立支援施設の処遇を放棄するのか、3年間にわたって。この存在が問われている。だから厚労省頑張れという話が出る。“私らにもっと力をかしてください、せめて小学生は児童自立支援でやらせてください”と何であなた方は言わないのか」と厚生労働省の無責任さを追及した。それに対し、村木厚生労働省大臣官房審議官は、「児童自立支援施設の職員は、これまでも、またこれからも、児童の立ち直りをしっかりやっていきたい。更に少年院という手段が加わっていくが、当然原則は、特に14歳未満の子どもについては、引き続き児童自立支援施設でケアをしていくので処遇を良くしていく、その力を付けていくということについては最大限の努力をしてまいりたい」と形式的な答弁に終始した。これを聞いて、近藤議員は、「参考人の話を聞く、衆議院の議事録を読む、視察へ行って見る、武蔵野学院のドクターの論文を読む、どれを見ても、何でここでやれないのか思う。結局、下からの話ではなくて、時々ごくまれに起こる非常に耳目をそばだてるような事件、これに対して、“何で、閉鎖施設、集団的に規律をしないんだ、あんな開放のところに置いておくのだ”という世論に押されたとしか思えない」としめた。

 最後に近藤議員は、「特に必要がある場合」について「相当にまれの場合だ」と法務大臣は答弁されたが、立法者の意思として、小学生で少年院というのはもう例外中の例外だと確認させてもらいたいと答弁を促した。長勢法務大臣は、「家庭裁判所で判断されることであるが、14歳未満の少年院送致は特に必要と認める場合に限り例外的にすることということになっており、小学生という場合には特段に例外的なケースであろうというふうに考えている。“例外の例外”の定義が分からない、“相当まれ”である」と答弁して質疑が終了した。


 その後、簗瀬進(民主党)議員から、民主党の修正案を提出し、その趣旨と内容を以下のように説明した。

 今回の少年法改正案は、触法少年事件に対する警察官等の任意調査権限の明確化及び強制調査権限の付与、14歳未満の少年の少年院送致、保護観察中の遵守事項違反による少年院収容制度など、少年事件の厳罰化の流れを一層推し進めようとするものである。衆議院において、民主党提案の修正案が一部取り入れられ、若干の改善あるとはいえ、なお大きな問題が残っている。

 まず、改正案は、触法少年事件について、警察官等による任意調査権限を明確化している。重大事件については、警察が適正な手続の下で調査することはやむを得ない場合もあると思われるが、調査の主体はあくまでも児童相談所家庭裁判所である。警察官等が独自の判断で調査することができる改正案の仕組みでは、警察が触法少年事件の中心機関となり、児童福祉の役割が大きく後退するのではないかと危惧される。

 また、表現能力などが不十分で暗示や誘導にもかかりやすい低年齢の少年に対して、任意とはいえ、警察官等による調査が行われることになれば、虚偽の自白がつくり出されるのではないかと危惧される。しかも、調査の全過程の録音、録画が必要だとする我が党ほか野党議員の質疑に対しても明確な答弁は得られなかった。

 次に、家庭裁判所の審判を相当とする一定の事由に該当する事件については、警察官は児童相談所長に送致しなければならないものとしている。従来、警察は、児童相談所への通告の準備行為として調査を行うにとどまっていたが、今回、通告とは別に送致規定を創設することは、警察官が触法少年児童相談所に通告しないまま、又は通告した後も、送致のために長期にわたって調査できることとなるおそれがあり、極めて不適切である。

 また、遵守事項を遵守しない保護観察中の者に対し、保護観察所長による警告手続を導入し、保護観察では改善更生を図ることができない者については、家庭裁判所が審判により、少年院送致等の保護処分を決定することができるものとしている。しかし、保護観察中の少年は、保護司や保護観察官との信頼関係を築きながら成長、更生していくことが期待されており、少年院送致等の威嚇により遵守事項を守らせようとすることは、保護観察制度の本来の意義を失わせるものであり、二重処罰に当たるおそれさえある。

 さらに、政府原案では、現在、14歳とされている少年院収容の下限年齢を撤廃したが、衆議院においておおむね12歳以上と修正された。しかし、おおむね12歳という下限年齢は、小学生の収容も可能とするが、小学生は児童自立支援施設で育て直しを図るべきである。

 また、児童の健全育成と保護の充実を図るため、児童相談所児童自立支援施設等の人的・物的体制の整備拡充を行い、児童福祉の向上、発展に努めるべきである。
 本修正案は、こうした問題点について、少年法の理念に基づいた修正を行おうとするものである。以下、その内容を説明する。

 第一に、触法少年事件についての警察官等の調査を、児童相談所長の要請を受けた場合又はその同意を得た場合に限定し、その調査を適切に行うための準則は国家公安委員会規則で定めるものとしている。

 第二に、少年に対する質問に際しては、少年、保護者等が求めたときは、児童福祉司又は付添人の立会いを認め、警察官は、少年に対し、あらかじめ答弁を強要されないこと及び児童福祉司又は付添人の立会いを求めることができる旨を告知し、少年の答弁及び質問の状況の全過程を記録媒体に記録しなければならないものとしている。

 第三に、警察官は一定の事由に該当する触法少年事件を児童相談所長に送致しなければならないとする旨の規定、及び児童相談所長等は警察から一定の重大事件の送致を受けたときは原則として家庭裁判所送致の措置をとらなければならないとする旨の規定をそれぞれ削除するものとしている。

 第四に、家庭裁判所は、審判の結果、保護観察中の者が遵守事項を遵守せず、保護観察所長の警告を受けたにもかかわらず、遵守事項を遵守しなかったと認められる事由があり、その程度が重く、かつ、その保護処分によっては本人の改善更生を図ることができないと認めるときは、決定をもって少年院送致等の保護処分をしなければならないとする旨の規定を削除するものとしている。

 第五に、初等少年院における処遇は、児童自立支援施設における処遇と著しく均衡を失することがないように留意されなければならないものとするとともに、少年院収容年齢の下限をおおむね14歳以上としている。

 第六に、国及び地方公共団体は、触法少年及び虞犯少年事件に適切に対応できるよう、児童相談所児童自立支援施設等について、職員の増員、研修等の実施、施設の充実等必要な体制の整備に努めるものとし、これに伴い、法律の題名を少年法等の一部を改正する等の法律に改めるものといたしている。


 仁比議員と近藤議員が、政府案に反対、民主党提出の修正案に賛成で討論したが、民主党修正案は少数で否決。原案が多数で可決された。

 その後、可決された法律案に対し、自由民主党民主党・新緑風会公明党日本共産党及び社会民主党・護憲連合の各派共同提案による附帯決議案(⇒付帯決議)を提出され、全会一致で採決された。
 

2007年5月25日の参議院本会議では、法務委員会における審査の経過と結果を報告され、投票総数194、賛成106、反対88で可決された。