14歳少年の自白、信用性に疑義ありとして、少年院送致取り消し!

阪高裁は、2007年5月14日、2004年2月に発生した大阪地裁所長襲撃(強盗致傷)事件に加わったとして大阪家裁で少年院送致された少年(事件当時14歳)の抗告に対し、「(大阪家裁の)決定には自白の信用性などに疑義がある」として、大阪家裁の決定を取り消し、審理を家裁に差し戻した。これによって、少年は「非行なし不処分」(無罪に相当)とされる公算が大きくなった(少年事件の抗告は、「差し戻し」「他の家裁へ移送」しかなく、高裁で自判できない)。
この事件で、13歳から29歳の5人(少年3人、成人2人)が逮捕・補導された。成人2人は否認したが、少年らは全員「自白」した。
成人2人に対しては、2006年3月、「共犯少年3人の自白は圧迫的取り調べによるもの」「(13歳少年)にはアリバイがある」「5人の犯行はなりたたない」などとして、大阪地裁は無罪の判決を出した。
少年らは捜査段階で自白をし、既に保護処分が確定していた少年もいる。しかし、他の少年(当時13歳と16歳)も冤罪を訴え、保護処分の取消し(事実上の「再審」)等の申立てをしている。
阪高裁は、大阪府警が少年に「机をたたいて怒るなど、取り調べが妥当性を欠いた」と認定し、供述の誘導もうかがわれ、「自白の信用性に疑問がある」とした。共犯とされる他の少年2人の自白も、この少年の自白と整合性がないばかりか、自分たちに関する部分にも信用性がないとした。したがって、他の少年らも「再審」で「無罪」になる公算が大きい。

現在、国会で少年法「改正」法案が審議されている。触法少年に対する警察への調査権付与などがその内容であるが、これと密接に関係する事件である。
触法少年とは、14歳未満の少年である。成人でも自白強要され虚偽自白に追い込まれることは数々の事件が示している(最近では、鹿児島の「選挙違反」事件)。本件の決定は当時14歳の少年に対するものである。

少年法「改正」案については、与党修正案が衆議院で採決。この部分に関しては、付添人選任権を新設し、質問に当たっては、強制にわたることがあってはならないものとするなどを加えた。しかし、この規定だけでは、虚偽自白は防げない。調査において、供述拒否権などきちんと保障し、実際に虚偽自白を防止するさまざまな方策(調査の過程に弁護士が立ち会うは最低限のこと)が不可欠である。

共犯とされた13歳は、まさに「触法少年」である。この13歳少年は家裁に送致されずに、児童相談所から児童自立支援施設に送致された。つまり「有罪」認定されたのである。これに対し「犯罪少年」(14歳以上)と異なって抗告等の方法がないため、事実上の再審を求めて、2007年4月26日、児童相談所などを相手に国家賠償請求を提訴した。(⇒4月26日毎日新聞大阪夕刊記事)
この少年の訴えによれば、児童相談所の一時保護所に64日間身体拘束。その間、警察により、暴行や脅迫を伴う長時間の取調を連日受け、襲撃事件の自白を迫られたという。警察は、夕食時間が大幅にずれ込むような長時間の取調べをしたり、面談室で取調官が少年を怒鳴りつける声が執務室まで漏れてきたことがあったが、児童相談所の職員は誰も制止や抗議をしなかったという。これらは、児童相談所が警察に協力すれば、事実上身体を拘束した状態で時間的制約なく取調が可能であるという実態、児童相談所の上記逸脱した取り調べも制止しないという警察への協力の実態を示している。

このように、現在でも、触法少年に対する警察の取調実態はすさまじいことがわかる。これを少年法「改正」法案のように、法的に認知したらどのようになるか、よりそれらの危険が大きいというべきだろう。また、上記のように、事実上、取調には時間の制約がない実態も浮かび上がっており、この点についても、国会ではまったく議論がない。
これらの重大な問題が抜け落ちたまま法律をつくることは許されない。


(参考⇒4月26日毎日新聞大阪夕刊記事)

毎日新聞:大阪地裁所長襲撃:“有罪”少年、児相など提訴 「自白強要」550万円賠償求め

http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/news/20070426ddf041040010000c.html
http://megalodon.jp/?url=http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/news/20070426ddf041040010000c.html&date=20070517111235