<金口木舌>望みは最低限の生活 - 琉球新報(2021年8月20日)

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「食べて寝て学校に行く。孫たちに最低限の生活をさせてあげたい」。10年ほど前に取材した60代女性は、娘と4人の孫とともに途方に暮れていた。ひとり親の娘は知人宅で住み込みで働き、孫たちは女性宅と親類宅に別れて暮らした

▼女性は持病を抱えており、女性の親は高齢だった。家族で娘以外に働ける人はいないが娘も精神的に不安定だった。一家は離散し、15歳の孫が昼夜を問わず2歳の赤ん坊を世話した。朝起きられず、不登校になった
▼支援機関の助けで生活保護が受給できると生活は一変した。2年ぶりに4人そろって暮らす孫たちに笑顔が戻った。女性は「追い詰められ、誰に相談していいのか分からなかった」と涙を流して支援に感謝した
▼「メンタリスト」として活動するDaiGo(ダイゴ)さんが、動画投稿サイトで「ホームレスの命はどうでもいい」と発言した。生活保護受給者への差別につながりかねない発言もあった
▼「優生思想に直結する」と批判が集まり、厚生労働省は公式ツイッターで「生活保護の申請は国民の権利」と投稿した。DaiGoさんは動画で謝罪した
▼冒頭の女性は生活保護の受給に「負い目を感じる」と話していた。だが基本的人権はすべての国民に保障されている。「望みは最低限の生活だけ」と話し、2歳の孫の頭をなでる女性の優しい表情が忘れられない。