大嘗宮の儀 政教分離になっているか - 信濃毎日新聞(2019年11月14日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191114/KT191113ETI090005000.php
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皇位継承の重要儀式「大嘗祭(だいじょうさい)」の中心となる「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」がきょうの夜からあす未明にかけ行われる。
即位された天皇陛下が「神を初めてもてなす機会」とされる。祭服に身を包み、五穀豊穣(ほうじょう)に感謝して、国と国民の安寧を祈る。神道形式の儀式で、宗教性が強いことは否定できないだろう。
政府は国事行為としなかったものの、皇室に長く伝わる皇位継承儀式として「公的な皇室行事」と位置付け、国費支出を決めた。
皇居の東御苑に30余りの建物で構成する大嘗宮を新設した。総額27億円の予算を組んだ。関連費用は皇室の公的活動費となる宮廷費である。憲法政教分離に反する懸念が拭えない。
平成への代替わりでは激しい異論が出た。国費支出の違憲性が争われた1995年の大阪高裁判決は、原告の訴えを退けたものの、「政教分離違反の疑義を一概に否定できない」と判断している。
今回の大嘗祭でも、皇嗣(こうし)の秋篠宮さまが昨年、宗教性が強いとして国費支出を疑問視した経緯がある。簡略化して「身の丈にあった儀式」として、天皇家の私的費用の内廷費から支出することが適切と述べている。
政府の準備委員会は3回で決着し、前回踏襲を決めた。皇室の在り方にも直結するため、議論の深入りを避けたのではないか。
大嘗祭の起源は、7世紀後半の天武天皇持統天皇の頃にさかのぼる。皇位継承の国家的祭祀(さいし)として整備されたとされる。室町から江戸時代の約220年間は戦乱などの影響で中断し、質素な小屋で催された時期もある。
現代の形は、明治政府が宮中祭祀や儀式の様式をまとめた「登極(とうきょく)令」に基づいている。古代から連綿と続くとされる皇統「万世一系」の理念を体現し、演出する狙いが込められている。
明治以降、国家と結び付いた国家神道天皇を神として崇拝した歴史がある。天皇が治める国家への忠誠を国民に強い、結果として戦争で多くの命が失われた。
登極令は戦後廃止され、大嘗祭の規定は現行の法令にない。現憲法になって実施される大嘗祭は、今回が2回目にすぎない。
皇室は時代とともに変わっていく。今回の皇位継承は議論する時間が十分にあった。安易に前回踏襲を決めた政府の責任は重い。このまま議論を後世に押しつけてはならない。今の時代の皇室や儀式はどうあるべきなのか。私たち一人一人が考えていく必要がある。