(大弦小弦)本棚に収めようとすると、新書は独特の存在感がある… - 沖縄タイムス(2018年11月19日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/346539
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本棚に収めようとすると、新書は独特の存在感がある。背が単行本より低く、文庫本より高い。厚さは他の本がまちまちなのに対してほぼ一定で、並べると規則的な感じがする

▼新書が世に出て80年。1938年11月20日、岩波書店が20点の岩波新書を発刊したのが始まりだった。「君たちはどう生きるか」の作者で編集者の吉野源三郎さんが発案した

日中戦争が泥沼化していた。吉野さんは後に、「日ごとにつのる偏狭な国粋主義の思想に抵抗」する必要があったと振り返っている。抵抗手段は事実を知らせること。政府が憎悪をあおる中、中国の実像を紹介する本も多く発行した

言論弾圧で一時休刊したが、49年に再出発。他社も参入し、ジャンルとして確立した。各分野の専門家が蓄積した研究成果や、現在進行形の問題をコンパクトに解説する

▼評論家の荻上チキさんは「検証 東日本大震災の流言・デマ」(光文社新書)を震災のわずか2カ月後に発刊した。デマの実例を多数収録、「ワクチン」と表現した。パターンを知れば免疫がつく。免疫を持つ人が増えれば、感染も抑えられると説いた

▼新書そのものが、社会のワクチンなのかもしれない。愛国か反日か。再び「偏狭な国粋主義」がデマをまとって増殖する今、「新しい書」が当初掲げた理想は少しも古びていない。(阿部岳)