(筆洗)「入管難民法改正からなし崩しに移民政策をはじめるのだな」 - 東京新聞(2018年10月31日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018103102000138.html
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【なし崩し】のもともとの意味は「借金を少しずつ返済すること」だが、現在、その意味で使う人は少なく、大半が「物事を少しずつ変えていくこと」の意味で使っている。
文化庁の「国語に関する世論調査」によると本来の意味を答えられた人は約二割。が、あまり心配はいらぬか。「小さいところからなし崩しにこわしはじめるのだな」。ゲーテの「ファウスト」に見つけた。訳は森鴎外。明治の文豪もその意味で使っている。
広辞苑の例文に「なし崩しに既成事実ができ上がる」とあったが、これもなし崩しの例として後世からけなされる憂いはないのか。外国人労働者の受け入れを拡大するための入管難民法案である。
限定的だった扉を大きく開き、数十万人単位の外国人労働者を受け入れる。一部は定住まで認めようというのだから日本の歴史の転換点にちがいないが、首相はこれをがんとして「移民」とは認めない。
移民と認めれば、保守派の反対論が強くなるという判断らしいが、鴎外の訳をまねて「入管難民法改正からなし崩しに移民政策をはじめるのだな」と言いたくもなる。
外国人の労働力は必要とはいえ、移民であることを前提にした議論も合意もなく、ごまかしながら既成事実としていく方法では国民の準備も理解も進むまい。それは外国人、日本人双方に災いの種になりはしないか。なし崩しを崩したい。