(筆洗)今年のノーベル平和賞 - 東京新聞(2018年10月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018100702000128.html
https://megalodon.jp/2018-1007-1014-02/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018100702000128.html

一九四五年十二月、フランス赤十字の一員としてポーランドワルシャワに勤務していた女性医師マドレーヌ・ポーリアックさんは恐るべき事実を知る。カトリック教会の複数の修道女が旧ソ連軍によって集団で性的暴力を受け、妊娠させられた。
フランスとポーランドの合作映画「夜明けの祈り」(二〇一六年)はこの医師の手記が基になったという。純潔を教えられた修道女たちは性暴力を受けたことを恥ととらえ診察をためらう。教会も事実を隠そうとする。恐怖と信仰上の悩み。混乱する修道女たちが見ていられぬ。
戦争、紛争状況下の性暴力は遠い過去の話ではない。今年のノーベル平和賞。紛争下の性暴力の根絶に取り組むお二人が選ばれることになった。コンゴ(旧ザイール)の医師デニ・ムクウェゲさんと、過激派組織から受けた性暴力を国際社会に向け、告発するイラクのナディア・ムラドさんである。
ムクウェゲさんは五万人を超える被害者の治療や支援に当たってきた。ムラドさんは悲痛な体験を沈黙ではなく、証言によって性暴力と闘う道を選んだ。頭が下がる。
性暴力を戦術として意図的に使うケースがあると聞く。精神的ダメージで地域を支配しやすくする。性暴力は武器、しかも人間が手に入れやすい武器である。
今回の受賞を単なる賞に終わらせることなく野蛮な武器をなくすための一歩としたい。

フランスとポーランドの合作映画「夜明けの祈り」(二〇一六年)はこの医師の手記が基になったという。