(大弦小弦)広辞苑第7版によると、万引とは「買い物をするふりをして… - 沖縄タイムズ(2018年6月14日)

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広辞苑第7版によると、万引とは「買い物をするふりをして店頭の商品をかすめとること」。映画の題名は単に行為を指すのでなく、家族の「ふりをして」懸命に生きる人々の記録と深読みもできる

カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」は、祖母のわずかな年金と日用品の万引で生活する家族の物語。失業や児童虐待、年金の不正受給など、暮らし向きに世相がにじむ

▼声高な告発でなく、淡々と細部の描写を積み重ねる。決して「清貧」でなく、駄目な部分も多いリアルな人間像を描く。善悪とは何か。家族とは何か。一方的に断罪するだけでいいのか。観客の想像力に委ねるラストが重く問い掛けてくる

▼国際的に活躍した日本人に直接電話するなどの祝福を好む安倍晋三首相が今回、映画界最高の栄誉に賛辞を贈らなかった。「クールジャパン」と対極の国の暗部を描く作品が、政権にとって面白くないことは容易に想像がつく

▼東京・目黒区で両親から虐待を受けていたとされる5歳の女児が「もうおねがい ゆるして」と記して亡くなった。映画の少女の姿と重なり、何もできなかったことに、もどかしさを感じた大人は多いのではないか

▼親の罪を問うだけでは事件はなくならない。背景や裏側を考え続けていく必要がある。(田嶋正雄)