セクハラ 沈黙しているあなたへ - 朝日新聞(2018年5月1日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13475689.html
http://archive.today/2018.04.30-235131/https://www.asahi.com/articles/DA3S13475689.html

傷つけられて、沈黙しているあなたへ。
セクハラされて、我慢して、悔しかったでしょう。悲しかったでしょう。私には、あなたの気持ちがわかる。
あなたは、私だ。
初めて社会へ出たころを思い出した。覚えることばかりで失敗もたくさんしたけれど、大人になった自分が誇らしかった。そこに、セクハラという「現実」が待っているなんて、想像したこともなかった。
ひどく傷つきながらも、考えた。この先も続くはずのキャリアを、失うのは怖い。だから、我慢することにした。
同じような経験をして、声をあげた被害者はいた。でも、良いことなんて一つもなかった。バッシングされ、ネットでさらし者にされた。そんな目に遭うくらいなら黙っていよう。そう思ったあなたは、悪くない。
そして、傷つけて黙っているあなたへ。
地位や権力があれば、何をしてもいい。セクハラなんて目下の人間のわがままだ。海外の「#MeToo」運動も、日本では目立たないから大丈夫。やばくなったら、「性を武器にした。はめられた」と反論すればいい――。そんな理屈が許されるなんて思わない方がいい。
私は、あなたを認めない。許さない。
傷つけているあなたに知らせがある。少し前と違って、声をあげる被害者が増えてきた。関東のNPOなどによる「#WeToo」や、学者や弁護士らが「#WithYou」の紙を国会内で掲げた運動も生まれた。
この春、首都圏の大学生たちが同世代向けに小冊子をつくった。「同意のない性的言動は全て性暴力です」と明記し、匿名通報窓口、支援施設などを満載した。反セクハラの集会や勉強会も各地で開かれている。
最後に、ただ沈黙しているあなたへ。
「自分は関係ない」と思っていませんか。でもきっと、どこかで関係している。職場で、街頭で、電車で、酒場で、見たり、居合わせたりしたことはないですか。性差別を、それを許す社会を、知らない間に受け入れてしまっていませんか。
見て見ぬふりをしたり、「被害者のためだ」と笑ってやり過ごしたりしたことは? 人の心と尊厳を破壊する問題に目をつぶるとき、その社会は暗やみへ向かって歩み始める。
もう、沈黙はやめよう。この息苦しい社会を変えるために。だれもが快く共存できる社会への、一歩を踏み出すために。