(余録)「しきしまの倭の国はことだまの… - 毎日新聞(2018年3月20日)

https://mainichi.jp/articles/20180320/ddm/001/070/141000c
http://archive.today/2018.03.20-003035/https://mainichi.jp/articles/20180320/ddm/001/070/141000c

「しきしまの倭(やまと)の国はことだまのたすくる国ぞまさきくありこそ」。やまとの国は言葉の霊力が物事をよい方向へ動かしてくれる国です、どうか無事に行ってきてください−−万葉集柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)の送別歌である。
口に出した「言」は現実の「事」になるという古代の言霊(ことだま)信仰だった。うたげの終わりを「お開き」、刺し身を「お造り」などと、不吉な言葉を縁起よく言いかえる習慣もその名残といわれる。言葉の霊的な威力を信じたご先祖だった。
今も命令でもない言葉が人を動かす威力をみせることがある。では森友学園への国有地売却に「私や妻が関係していたとなれば首相も議員も辞める」と見えを切った安倍晋三(あべ・しんぞう)首相の答弁は財務省の決裁文書改ざんの引き金だったのか。
きのうの参院委の集中審議では改ざんへの答弁の影響を否定した首相だった。決裁文書から削られた首相の妻と学園の関係は答弁の時はすでに国会で議論されていたからだというが、影響の有無は改ざんの当事者に聞かねばなるまい。
今や改ざんの責任を一身にかぶせられそうな前理財局長がその筆頭だが、この虚偽答弁の張本人を国税庁長官にして「適材適所」とした政権である。その役人支配の手練手管(てれんてくだ)ならば、国民も十分見せてもらった森友・加計問題だった。
思えばこの問題が国政に居座った1年間、政権トップの言霊の威力はみごとに役所の文書管理のでたらめを浮き彫りにした。内閣支持率の急落となって表れた霊威の衰弱は自業自得(じごうじとく)というしかあるまい。