「最長残業」根拠に首相答弁 残業データ、違う質問比較 - 朝日新聞(2018年2月19日)

https://www.asahi.com/articles/ASL2K049GL2JULFA033.html
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裁量労働制で働く人の労働時間について「一般労働者より短いデータもある」とした国会答弁を安倍晋三首相が撤回した問題で、首相の答弁は、裁量労働制で働く人より一般労働者の労働時間の方が長い集計結果が出やすい調査を元にしていたことが分かった。そもそも質問内容が同じでなく、一般労働者に「最長」の残業時間を聞く一方、裁量労働制で働く人には単に労働時間を尋ねていた。
関係者によると、一般労働者への質問は、1日の残業時間について1カ月のうちの「最長時間」を尋ねる内容だった。一方、裁量労働制で働く人には単に1日の「労働時間の状況」を聞いていた。このため、一般労働者の方が長時間の回答が集まりやすくなっていた。質問そのものが異なる調査の結果を単純比較して答弁の根拠にしていたことになり、不適切な答弁だったことが一段と明白になった。データの使い方への疑義が強まるのは必至だ。
答弁の根拠になったのは厚生労働省が2013年に公表した「労働時間等総合実態調査」。全国1万1575事業所の「平均的な人」の労働時間を調べた。この調査を元に、1日あたりの労働時間は一般労働者(平均9時間37分)より裁量労働制で働く人の方が平均20分前後短いと政府は説明していた。
首相は働き方改革が議論された1月29日の衆院予算委員会で、厚労省の調査を元に「平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁。裁量労働制で働く人の方が1日あたり平均20分前後短いとするデータに疑義があると野党から追及を受け、14日に答弁を撤回した。
一般労働者の1日の労働時間は、残業時間に法定労働時間(8時間)を足して算出しており、裁量労働制で働く人の労働時間と単純比較できないこともすでに明らかになっている。厚労省は19日朝、データを精査した結果を同委員会の理事会に示す予定。不適切な答弁が作られた意図や経緯が厳しく問われそうだ。(贄川俊、村上晃一

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裁量労働制〉 労働時間の規制を緩める制度の一つ。実際に働いた時間でなく、あらかじめ定めた労働時間に基づいて残業代込みの賃金を払う。それ以上働いても追加の残業代は出ない。仕事の進め方をある程度自分で決められる働き手に限って適用できる。研究開発職などが対象の専門業務型と、企業の中枢で企画・立案をする人が対象の企画業務型がある。政権は、残業時間の上限規制と抱き合わせで対象業種を拡大しようとしている。