(書評)日米地位協定 明田川融 著 - 東京新聞(2018年1月28日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2018012802000190.html
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◆主権の棄損許す国と国民
[評者]前泊博盛=沖縄国際大教授
「解決できない問題」「難解な問題」はどうするか。この国の官僚に対応策を尋ねた。「解決できない問題、難解な問題は、まず先送りする。それでもだめなら無かったことにする。それがこの国の掟(おきて)だ」。そう聞かされた。
本書は、この国の主権と民主主義、国民の生命、財産、そして憲法すらも侵害する「日米地位協定」の歴史と現在(いま)を膨大な機密指定解除文書などで検証し、先送りされ、解決されない改定問題の本質を告発している。
敗戦による米軍占領を終える講和締結の条件として、米国は「日本国内の望む場所に、望む期間、望む数の軍隊を駐留させる権利」を要求する。「米国にそのような特権を付与する政府は、日本の主権を棄損することを許したとして、非難の的になる」と、講和・安保折衝を担当した米代表すらその実現を懸念した内容だが、日本は講和と引き換えに「望む形」で世界に類を見ない「全土基地方式」を受け入れた。
加えて「施設または防衛区域を建設し(浚渫(しゅんせつ)・埋め立てを含む)、運営し、維持し、利用し、占有し、警備し、管理する」という日本の国土の自由な改変すらも認める「排他的管理権」も米軍に与えている。
主権の譲渡は首都圏の空域(横田ラプコン)にも及び、戦後七十年以上を経た現在も管制権は奪われたまま。協定にも規定のない米軍駐留経費や施設建設費も「思いやり予算」という名の忖度(そんたく)で支出し続ける。日米合同委員会という「密約製造マシーン」は日々米軍特権を量産・追認し、米兵犯罪や演習被害の補償すらも血税で負担する。
沖縄の「排他的戦略的支配」権を米国に許す政府。米国への従属と米軍の永久的駐留に何の疑問も持たず、基地負担を沖縄に押しつけておけば万事安泰と考え、思考停止する。本書は、そんな国民の無視と無知、「無関心の暴力」を告発しながら、地位協定問題の解決を通して「属国・日本」からの脱却と主権回復策を提示している。

(みすず書房・3888円)

<あけたがわ・とおる> 法政大教授。著書『沖縄基地問題の歴史』など。

◆もう1冊
前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)。理不尽がまかり通る米軍駐留の在り方を定めた協定を解説。

日米地位協定

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