(筆洗)JR常磐線柏駅に停車した電車内で二十代の女性が女児を出産 - 東京新聞(2018年1月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018012202000125.html
https://megalodon.jp/2018-0122-0944-25/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018012202000125.html

浅田次郎さんの最新刊「おもかげ」を読んでいたら地下鉄の車内で意識を失った男性を乗り合わせた人たちが介抱する場面が出てきた。
そんなことが実際にあるだろうか。電車内といえば、見たいものより見たくないものの方が目に飛び込んでくるもので、人を押しのけ席を奪おうという人もいるし、狭い車内で、足を投げ出して座って平気な人もいる。立っている高齢者を目の前に席を譲らずゲームに興じる若い人は珍しくない。
不愉快だが、あまり責めもできぬ。みな自分のことで精いっぱいなのだろう。人のことなどかまっていられぬ。あの小説のようなことは、たぶん起こらず、誰かが倒れたとしても、せいぜい、駅員を呼ぶぐらいなのではないか。自分にしたって倒れたその人に駆け寄れるか自信がない。
その見方は間違っていたかもしれぬ。千葉県柏市のJR常磐線柏駅に停車した電車内で二十代の女性が女児を出産した一件である。
車内に居た四、五人の女性たちが出産を助けて子どもを取り上げている。「おぎゃあ」。その声に車内から祝福の拍手がわいたと聞く。人間は想像以上に優しく温かい。少なくとも、普段は無関心でも、いざというときはそうなれる可能性がある。そう信じる。
人の温かい心を借りて、この世に生まれた赤ちゃんの健やかな成長を祈る。優しい子になるだろう。きっと電車が大好きな。