被虐待児のケア 施設から「家庭」主体に - 東京新聞(2018年1月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018011602000179.html
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虐待などを受けて親元で暮らせない子どもたちに、里親など家庭での養育を優先するとした改正児童福祉法の下、都道府県計画の見直しが始まる。「子どもの利益」を優先した計画を示してほしい。
親元で暮らせない子どもは全国に約四万人おり、その八割は乳児院児童養護施設で生活する。
一昨年の児童福祉法改正は里親など家庭での養育を優先する原則を定めた。施設での養育を基本にしてきた従来の政策転換を図る内容で、国会では全会一致で可決。昨夏は厚生労働省の検討会が「新しい社会的養育ビジョン」を公表し、新年度中をめどに都道府県計画の見直しが行われる。しかし、既存の児童養護施設の関係者から懸念の声も上がっている。
新ビジョンは、就学前の子は原則として新規の施設入所をやめ、里親に委託する。全国平均約18%の里親への委託率を例えば、三歳未満では五年以内に75%以上に引き上げることなどを提言。特別養子縁組も年間五百件から千件に増やすとした。施設でしか対応できない子どもの場合も、大人数の施設は廃止し、十年以内に数人単位で地域に分散した小規模施設に変えていくよう求めている。
これに対し、施設関係者は反発する。▽里親などの体制が整わない中、就学前の子の新規入所を原則停止するのは現実的ではない▽一律の数値目標や入所期限を盛り込むのではなく、地域の実情に応じて関係者が協議しながら目標を達成していくことが必要−などと訴えている。
戦後続いてきた政策の転換期である。現場の関係者が施設の継続性も含めて不安になるのは当然だ。だが新たな法は「子どもの権利」を明記し、「家庭養育優先の原則」をうたう。子ども一人一人に特定の大人に見守られる家庭を保障することである。国はこの理念を後退させることのないよう、現場の声にもよく耳を傾けながら最善の方策を示してほしい。
社会的養護を必要とする子どもは親から虐待を受けている場合が多い。里親といっしょに暮らし始めてからも、精神的に困難を抱えた子が少なくなく、専門家によるケアの継続は欠かせない。
身近な市区町村によるソーシャルワーク体制を充実させたい。中核になる児童相談所の児童心理司など専門員の配置状況をみると、都道府県で大きな差がある。地域によって支援に格差が生まれないよう、人材養成でも財政の面でも国は体制づくりを支援すべきだ。