<金口木舌>溜めをつくる - 琉球新報(2018年1月12日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-645078.html
http://archive.is/2018.01.12-004257/https://ryukyushimpo.jp/column/entry-645078.html

以前、ある自治体の職員から聞いた言葉が印象に残っている。「生活が厳しい市民ほど、制度を理解し申請して活用すること自体、困難なことが多い」

▼困難を抱える家庭は、孤立しがちだ。彼は「自ら必要な行政サービスを申請するべき、という考えだけではうまくいかない」と言い、多様な市民と行政機関とをどうつなげるか、模索していた
▼思い出したのが「貧困とは“溜(た)め”が欠けた状態だ」という社会活動家の湯浅誠さんの指摘だ。溜めとは金銭だけでなく生活基盤、人間関係、精神的余裕などのこと。さまざまなトラブルに対するバリアーのようなものだ
▼例えば失業した場合、貯蓄がないと明日の生活費を稼ぐ必要に迫られる。仕事を紹介したり金銭を援助したりしてくれる人間関係がないと、生活の見通しが立たない。溜めがないと、悪循環の中で自己肯定感を失っていく
▼溜めが増えれば、希望を描けるようになる。湯浅さんは「構ってもらう時間」が溜めを増やすと強調する。人は、幼少期に心の中のコップの水があふれるまで構われることで、やっと安心できる状態になると例える
▼逆にその体験がない人は大人になっても、水があふれるまで構ってもらわなければ、安定した人間関係を築けないという。周囲の子や大人への丁寧な関わりが、セーフティーネットを強くするための第一歩となる。