毒ぶどう酒事件 未開示証拠なぜ調べぬ - 東京新聞(2017年12月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017120902000134.html
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名張毒ぶどう酒事件の死後再審を求める訴えは、本格的な審理に入らぬまま退けられた。冤罪(えんざい)の疑いは拭えたのだろうか。そんなことはあるまい。裁判所はなぜ、未開示の証拠を調べないのか。
今回の第十次再審請求は二〇一五年、奥西勝元死刑囚の獄死で第九次請求の審理が打ち切られたことを受け、妹の岡美代子さん(88)が申し立てた。
弁護側は、ぶどう酒瓶の封緘(ふうかん)紙を分析した鑑定書など二十八点を新証拠として提出。検察側は、それぞれを否定する意見書を出していた。
名古屋高裁は、弁護団、検察官との三者協議を開かぬまま請求を棄却する決定をした。
三審制の裁判制度にあって、確定判決を見直す再審は極めて例外的な救済手続きとされる。死後再審ともなれば例外中の例外ということになる。それでも、一九五三年に起きた徳島ラジオ商殺人事件のように受刑者の死後、確定判決の誤りが明らかにされた例がないわけではない。今回、裁判所は審理を尽くしたといえるのか。
近年の再審事件では、DNA鑑定が新証拠となって確定判決の誤りが明らかになることが多いが、名張事件の確定判決を支える証拠には、DNA鑑定の対象となるものは見当たらない。もとより、そもそも犯人に直接結び付く説得力ある物証がないのである。
だからと言って、手掛かりが尽きたわけではない。
執行できなかった確定死刑判決に見え隠れしていた疑問の数々を解きほぐす鍵は、検察側が公判廷に出さぬまましまい込んでいる未開示証拠にあるのではないか。
再審無罪となった東京電力女性社員殺害事件や静岡地裁が再審開始を決定した袴田事件では、現に裁判所に促されて検察側が未開示証拠の開示に応じ、確定判決が崩れる大きな要因になった。
名張事件は、津地裁の一審が無罪。第七次再審請求でも一度は名古屋高裁が再審開始を認めた。有罪の立証ができていないと判断した裁判官が少なからずいたわけである。二転三転した司法判断の迷いを振り返れば、確定判決だという制度上の重みを守ることが裁判所の役目ではあるまい。
証拠の評価に市民の常識を反映させようという裁判員裁判の時代を迎えたのである。再審請求事件も変わらねばなるまい。旧来の流儀にこだわらず、検察側が独占してきた未開示証拠に光を当てることはできなかったのか。