(筆洗)公開した「パラダイス文書」 - 東京新聞(2017年11月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017110802000126.html
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「今日官民上下の大患は、貧の一字に在り、貧の一字、これ流言のもと、腐敗のもと、乖離(かいり)のもと、反目のもと、俗諺(ぞくげん)にいわく暴は貧より生ず」。中江兆民は社会の病やいさかいのすべての原因は貧困であると説いた。
その言葉を疑う気はないが、だとすれば、これはいったいどういう「貧」なのだろう。そんな思いでそのリストにある名を見つめる。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公開した「パラダイス文書」である。
租税回避地に関与した人物のリストには世界の首脳や閣僚、資産家や著名人がずらりと並んでいる。間違いなく人並み以上に富に恵まれている人たちである。これでは、「暴は富より生ず」ではないか。
租税回避地を利用すること自体は違法ではなかろう。けれども、まっとうに税を支払っている人を横目に、不透明な手段で税逃れに走る。そのそしりはまぬがれまい。
それはやはり、「貧から生ず」かもしれぬ。心の貧。自分の利益のみを考え、その税金によって救われる人がいることに心を配らぬ想像の貧である。
<それぞれにひとつの人生。僕らは皆、同じじゃないけれど、互いに支え合っていかなければ>。U2の「ONE」は連帯や愛の曲であろう。そう歌い、貧困問題に積極的に取り組んだ人の名が文書の中にあったのが悲しい。ボノ。その行為はお互いを支え合うことなのかい?