(余録)指導者が簡潔に断言してできるだけ同じ言葉で… - 毎日新聞(2017年10月22日)

https://mainichi.jp/articles/20171022/ddm/001/070/166000c
http://archive.is/2017.10.22-013151/https://mainichi.jp/articles/20171022/ddm/001/070/166000c

指導者が簡潔に断言してできるだけ同じ言葉で繰り返し説く。そうすれば、その意見がさらに威厳を得て群衆の中にいや応なく感染していく−−。フランスの心理学者、ル・ボンの「群衆心理」にある。
高田博行さんの著書「ヒトラー演説」によれば、ヒトラーは図書館で「群衆心理」を読んでいたらしい。確かに政治家の演説は内容ばかりでなく、言葉遣いや声の抑揚、身ぶりが大事だ。さて、きょう投票の総選挙で心に響く演説を聞けただろうか。
今年話題になった映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男−−その名は、カメジロー」は占領下の沖縄で土地の接収などを進める米軍の圧政と闘った政治家、瀬長亀次郎を描いたドキュメンタリーだ。力強い演説で聴衆を引きつけた。
1950年、米軍への抵抗を呼びかける時もそうだった。「私の声は50メートル先まで届く。ここに集まった人が全員で叫べば那覇市中に届く。沖縄県民70万人が声を上げれば太平洋の荒海を越えてワシントン政府をも動かす」
聴衆はなぜ瀬長の演説を支持したのか。彼は米軍の策略で投獄されても信念を貫いた。米軍は瀬長を分析した資料を残している。「彼はありきたりの言葉を使う演説をしなかった」。その言葉は行動と人柄に裏打ちされたものだと米軍も分かっていた。だから「最も恐れた男」だった。
政治家の命は言葉といわれる。そこに口先の巧みさではなく、どんな信念がこもっているか。投票する前に、街頭で聞いた演説をいま一度思い起こしたい。