司法通訳 専門職として制度化を - 朝日新聞(2017年7月20日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13045104.html
http://megalodon.jp/2017-0720-0913-58/www.asahi.com/articles/DA3S13045104.html

捜査機関で適正な取り調べを受け、裁判所で公平な裁判にのぞむ。外国人の容疑者や被告にも保障される権利だ。
ところが、捜査や公判で外国人が自分の立場を正確に説明できなかったり、通訳によって証言が誤って訳されたりする例が表面化している。
事件の真相を解明するうえでも一定の技量をもった通訳の確保は欠かせない。裁判や捜査で言葉の壁をなくす「司法通訳」の資格化や、通訳選定の基準を明確にするルールづくりなどに、国は着手すべきだ。
一昨年、全国の地裁や簡裁で判決を受けた被告のうち22人に1人にあたる約2700人に通訳がついた。使用言語は中国語、ベトナム語タガログ語の順に多く、39言語に及ぶ。
大阪地裁で5月、妻を殺した罪で実刑判決を受けた中国人男性被告の裁判では、警察での取り調べの録音・録画から大量の通訳漏れや誤訳が判明した。
被告が殺意を否定する発言をしたのに訳されていないなど、弁護人の分析で約120カ所の問題点が見つかった。
東京地裁での昨年の刑事裁判でも、インドネシア人証人の通訳内容を地裁が鑑定し、弁護側の分析で約200カ所の誤訳や訳し漏れが見つかっている。
録音・録画があれば誤訳かどうか検証できるが、なければそれも困難となる。発覚した例以外で、誤訳の実態が見過ごされている可能性はある。
通訳ミスは、誤った捜査や冤罪(えんざい)につながりかねない。
問題は、日本では司法通訳に資格や語学力の基準がなく、裁判所や警察が個々の判断で依頼していることだ。拘束時間の長さの割に報酬は低く、専業で生計を立てるのは困難という。
韓国・朝鮮語の法廷通訳を約25年務める女性は「精神的な負担が大きく責任も問われる仕事だが、専門職として社会で認識されていない」と指摘する。
日本弁護士連合会は13年に意見書を出し、法廷通訳を資格制にすることや、報酬を規則で定めて能力の高い通訳には相応の額で身分保障することを提案した。資格制を導入している米国や豪州、報酬基準を明確にしている韓国を参考にしている。
司法の一角を担う専門職として通訳を位置づけていくために、参考になる提案だ。
警察官や検察官、裁判官、弁護士にも、通訳しやすい言葉を使うといった配慮が求められる。そのための研修も必要だ。
万人にとって適正で公平な刑事手続きを整えるのは、法治国家として当然の責務である。