核兵器禁止条約 被爆国から発信続けよ - 東京新聞(2017年7月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017070902000152.html
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核兵器禁止条約が国連会合で採択され、「核なき世界」実現に歴史的な一歩を刻んだ。だが米国の核抑止力に依存する日本は条約に不参加。「核廃絶を目指す被爆国」への信頼は損なわれた。
国連加盟国のうち六割以上の百二十二カ国が条約に賛成した。五十カ国が批准後に発効する。核兵器の開発や製造、実験、配備、移転を包括的に禁止し、さらに「核を使用するとの威嚇を禁止」して、核による抑止力も否定した。
前文には「核兵器使用の被害者(英語でヒバクシャと表記)の受け入れ難い苦しみと危害に留意する」と明記された。広島、長崎の被爆者の平均年齢は八十歳を超えた。原爆の恐ろしさを直接知る人たちが健在なうちに条約が採択されたのは、核廃絶を願う国際社会の強いメッセージだと言えよう。
条約の根底にあるのは「核の非人道性」だ。核が使われたら、人命や経済、社会生活に甚大な被害が出るだけでなく、医療チームや消防、軍隊も長期間、救出活動ができない。放射性物質による環境破壊も続く。それほど人道に反する兵器は全面的に禁止すべきだという考えである。
米ロ英仏中の五カ国やインド、パキスタンなど核を持つ国々はどこも加わらなかった。条約の実効性が疑われ、今後の軍縮、不拡散も進まないという悲観論が広がる。だが、初めて核兵器そのものを禁止する国際法規ができた。世界の核兵器の90%以上を持つ米ロ両国に対し、削減を促す国際世論が高まるのは間違いない。
保有国が不参加では軍縮論議は進まないとして、日本政府は条約に署名しないと決めた。北朝鮮が核、ミサイル開発を続けている現状では、米の核抑止力を否定する条約には賛成できないという事情もあった。
核廃絶の訴えは政府だけの役割ではない。日本には被爆者の証言集をはじめ、原爆の破壊力を示す多くの資料の蓄積がある。
それを海外に発信し、とりわけ核保有国の国民に訴えて、核のない世界を目指すよう世論を喚起していきたい。既に市民団体や大学生のサークルが英文の資料や論考をインターネットで発信している。
条約は非締結国にも会議へのオブザーバー参加を認めている。日本は出席して、禁止条約を支持した国々の声を正面から受け止めるべきだ。あらためて軍縮、廃絶への決意を示す必要がある。