(私説・論説室から)他者を幸せにする力 - 東京新聞(2017年5月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017051002000129.html
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二十年余り取材でお付き合いのある厚生労働省の香取照幸前雇用均等・児童家庭局長が、駐アゼルバイジャン大使に就任した。
介護保険創設の中心メンバーとして制度作りの実務を担い、「介護保険の鉄人」と呼ばれた。社会保障と税・一体改革の青写真を描いたのも彼だ。元首相秘書官の飯島勲氏をして「『国有財産』ともいうべき優れた官僚」と言わしめた。
上司でも政治家でも言わねばならないことは直言する。年金局長の時はGPIF改革を巡り、塩崎恭久厚労相と激しく対立した。そのせいか有力な事務次官候補だったが、局長で退官した。彼の筋を通す姿勢は「忖度(そんたく)」が横行する霞が関で稀有(けう)なものだった。 
赴任前に壮行会が開かれ、多くの厚労省関係者が集まった。香取さんはそこで「後輩に聞いてほしい」と、これまでどういう思いで仕事に取り組んできたかを語った。
「市民の発するひと言の背景には、語られない多くの言葉、思いが隠されている。そのことを忘れてはならない」
そして「官僚は公務員である前に一人の市民である」として続く言葉が印象的だった。
「よき市民、よき家族、よき恋人、よき夫、よき妻、よき父親、よき母親であること。自らの生活が幸福でない者に、他者を幸福にする力はない」。私も記者である前に一人の「よき市民」でありたいと思う。 (上坂修子)