「高浜」高裁決定 あと戻りしてないか - 東京新聞(2017年3月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017032902000138.html
http://archive.is/2017.03.29-001645/http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017032902000138.html

「画期的な司法判断」は、またもすっかり覆された。関西電力高浜原発3、4号機を止めておく法の鎖は解き放たれた。3・11以前へのあと戻りを懸念する多くの住民の不安と不信を募らせて。
「国民の命を守る司法からの重いメッセージ」
 昨年三月、稼働中の原発を初めて止めた大津地裁の決定を、私たちはそう評価した。
基準地震動(耐震設計の目安となる最大の揺れ)の策定方法に問題があり、起こり得る地震の大きさの評価が過小、津波対策や避難計画についても疑問が残る。従って、住民の人格権が侵害される恐れが強い−。3・11後の新たな原発新規制基準の在り方に疑問を呈し、原発の再稼働に関して同意権を持たない立地県以外の住民感情にも、配慮のある判断だった。
そんな住民の“ひと安心”は、一年で覆された。高裁の壁はいまだ高かった。
阪高裁は「規制により、炉心の損傷等を防止する確実性は高度なものとなっている」と、新規制基準を評価。「これら(既存の計算式など)の手法に基づいて策定した基準地震動が過小であるとはいえない」「避難計画等の具体的内容は適切なもの」とした。そして「新規制基準が福島第一原子力発電事故の原因究明や教訓を踏まえていない不合理なものとはいえない」と断じた。地裁判断はおおかた覆された。
だが、現実はどうだろう。
原子力規制委員会内部には現在、地震動の専門家がおらず、十分な評価ができる立場にない。
新規制基準における揺れの強さの評価手法に関しては、昨年四月の熊本地震、つまり“最新の知見”を踏まえた上で、専門家から疑問の声が上がっている。
三十キロ圏内の自治体は避難計画の策定を義務付けられたが、道路の渋滞や避難の“足”の確保が不安視されたままである。
関電は大津地裁の決定を「科学的、専門的知見を踏まえた客観的な判断がなされていない」と批判した。大阪高裁の判断は、十分に科学的、専門的だと言えるのか。3・11の教訓や住民の不安に配慮したものと言えるのか。
福島第一原発の事故処理は難航を極め、事故から六年を経て、原発再稼働に反対する人は増えているという世論調査の結果もある。
今、時計を逆回りさせてもいいものか。電力会社と政府にも、よく考えてもらいたい。