(筆洗)むしろ国語、読書嫌いを増やさないか - 東京新聞(2017年2月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017021502000136.html
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作家の浅田次郎さんは忙しくとも午後二時から午後六時までの四時間を読書に充てているそうだ。読書にこだわるのは幼き日の家庭環境と関係があると書いている。
家族が読書の大切さを教えたのだろうと想像する方もいるか。逆である。禁じられた。学校から帰って「怪人二十面相」や「少年探偵団」を読んでいると「本なんぞ読んでいたら肺病になっちまう。表で遊んでこい」とたちまち本を取り上げられた。
その目を盗み読んでいるうちに読書がひそやかなたのしみとなったそうだ。今の子どものネットやゲームと同じか。子どもは親が勧めないことは試みたくなる。
話は文部科学省が提示した次期学習指導要領の改定案である。小中学校の国語で語彙(ごい)の指導の充実が明記された。最近の子どもの読解力の低下への対応と聞く。効果を期待したいが心配もある。
豊かな語彙が読解を助け、深めることはいうまでもない。されど、まずは読む喜び、読み解く楽しさを教え子どもを読書好きにし、その結果、子どもの語彙が自然と充実していくというのが理想だろう。どういう教え方になるのか分からぬが、語彙を詰め込んだとて効果は上がるまい。むしろ国語、読書嫌いを増やさないか。
改定案によれば小学校の英語やプログラミング教育など負担は増える。自発的に本を読むための時間と体力が子どもたちに残ることを祈る。