(筆洗)人種差別や性差別に反対し、法の下の平等と司法の独立を支持することは、下院にとって、とてつもなく大切なことだ - 東京新聞(2017年2月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017021002000137.html
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英下院議長は、六百年以上の歳月を重ね、権威を磨き上げてきた要職だ。与野党が激しく対立する下院にあって、不偏不党の立場で、議論を司(つかさど)る。だから主要政党は、総選挙で議長の選挙区には対抗馬を立てぬことで、その権威と中立性を守ってきた。
下院を代表して国王に物申す立場であったため、かつては王の怒りを買うこともあり、七人もの議長が斬首された。法の支配や議会制民主主義を守るために血が流されたのだ。
そんな重職を担うジョン・バーカウ議長が先日、思い切った発言をした。テレビ番組での「お前は首だ」の殺し文句で人気者となり、米大統領になったトランプ氏の訪英と議会での演説について、こう言ったのだ。
「彼を議会に招く考えはない。人種差別や性差別に反対し、法の下の平等と司法の独立を支持することは、下院にとって、とてつもなく大切なことだ」
トランプ氏とどう向き合うかは極めて政治的な問題であり、どこかの国の首相のように、「ノーコメント」を貫くのが議長としては無難だったのかもしれぬが、議会制民主主義の守り手として譲れぬ一線があるのだろう。
二年前に米議会で「(日米同盟は)法の支配、人権、そして自由を尊ぶ、価値観を共にする結び付きです」と演説した安倍首相は、新大統領とも、そういう価値観を共有しうると、世界に向かって宣言できるのだろうか。