「共謀罪」 前提から説明し直せ - 朝日新聞(2017年2月2日)

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共謀罪」をめぐる論戦が国会冒頭から交わされている。
政権は「テロ等準備罪」と名称を変え、適用要件を厳しくしたうえで、創設のための法案を提出する構えだ。だが政府答弁には乱暴さやゆらぎが目につく。国民の理解はなお遠い。
代表例は安倍首相である。
衆院本会議で「法整備しなければ五輪を開けないといっても過言ではない」と述べた。招致段階を含め、初めて聞く話だ。
予算委員会では、過去に提出された共謀罪法案について、「組織的でなくても、ぱらぱら集まって話をしただけで罪になるわけです」と、従来の政府見解と全く異なる答弁をした。
いま検討中の法案の厳格さを強調したかったのだろうが、共謀罪をめぐる長年の議論の前提をくつがえす発言である。
問題の所在や経緯をしっかり理解したうえで、首相は法案の提出を指示しているのか。賛否の立場をこえて、疑念を感じた人も多いだろう。
政府が共謀罪の創設を唱えてきたのは、00年採択の国際組織犯罪防止条約に加わるためだ。朝日新聞の社説は、国際協調の意義を認めつつ、立法措置が必要だとしても、ふつうの人の生活や人権を制約することのないよう、限定的なものにしなければならないと主張してきた。
政府は今回、(1)対象を団体一般から「組織的犯罪集団」に限る(2)摘発には、重大な犯罪の実行にむけた「準備行為」がなされることを必要とする――という二つのしばりを加え、さらに「重大な犯罪」の範囲も絞り込む考えを示している。
方向性は妥当だが、具体的な条文案は明らかになっておらず、「恣意(しい)的な取り締まりにはつながらない」という説明を受け入れられる状況ではない。
そもそも、「重大な犯罪」の定義は条約で定められていて、絞り込みは不可能というのが、政府の一貫した立場だった。これとの整合性はどうなるのか。
間違っていたというのなら、あわせて重ねてきた「共謀罪を導入しなければ条約に加盟できない」などの答弁にも、あらためて疑義が生じよう。
テロ対策はむろん重要な課題だが、組織犯罪の類型は麻薬、銃器、人身取引、資金洗浄と多様だ。それを「テロ等準備罪」の「等」に押しこめてしまっては、立法の意義と懸念の双方を隠すことになりかねない。
誠実な説明と情報公開を通じて議論を深め、合意形成を図ることが肝要だ。看板を替え、五輪を名目に成立を急ぐような態度は、厳に慎まねばならない。