天皇の生前退位に関する憲法論(後編)(木村 草太さん) - 自治労(2016年12月19日)

http://www.jichiro.gr.jp/column/peace/5822

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おわりに
以上をまとめると、次のようになる。まず、生前退位を認めるために、憲法の改正は必要なく、皇室典範を改正すれば足りる(一)。次に、天皇の地位に伴う負担の軽減の必要を考えると、生前退位の制度化は積極的に評価できる(二)。ただし、一代限りの特別法は、退位の基準や手続きを曖昧にしてしまうし、憲法2条の文言・趣旨とも整合しない(三)。 以上が、生前退位に関する法的検討である。

ここで、象徴天皇制について、若干のコメントを付加しておきたい。
今回の天皇陛下のお言葉を聞いて、国民統合の象徴として、「人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うこと」を大切にしてきたという天皇陛下の高い倫理観に、尊敬の念を覚えた。しかし同時に、不安も感じた。国民の側から、後代の天皇にそうした高い倫理観を期待するようなことになれば、天皇にとってあまりにも過大な負担となるだろう。天皇が国民の過度な期待に応えることができず、批判の目をむけられることになれば、象徴天皇制の維持は困難になる。
本文で指摘したように、政治家等が恣意的に生前退位制度を運用するなど、天皇を政治利用することは決して許してはならない。また、天皇に過大な負担をかけないためには、国民も過度な期待を押し付けてはいけない。現在のような象徴天皇制を維持したいのであれば、政治家も国民も、そうした慎みが不可欠だろう。

憲法2条
皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。