(余録)「風」という漢字は大きな鳥の形で… - 毎日新聞(2016年10月21日)

http://mainichi.jp/articles/20161021/ddm/001/070/161000c
http://megalodon.jp/2016-1021-1041-33/mainichi.jp/articles/20161021/ddm/001/070/161000c

「風」という漢字は大きな鳥の形で、大昔の中国では風は鳥のような姿をした神と思われていた。漢文学者の白川(しらかわ)静(しずか)の「常用字解」によると、この風神が各地に出かけていってその土地独自のしきたりやならわしを生んだと伝えられている。
つまり「風土」「風俗」「風物」などの言葉の起源である。その風が人々の性情に深くしみ入ったところに「風格」が生まれる。だが現代の人々の行動は所属する役所や企業の「組織風土」によって左右されることが多い。
驚いたのは、沖縄県の米軍施設建設に反対する人々に対し警備の機動隊員が「土人(どじん)が」と罵倒(ばとう)している動画である。ほかにも「こら、シナ人」という暴言があって、いずれも警備の応援に来た大阪府警の隊員の口から出た。
仮にも法の執行者たるものが差別意識や排外感情丸出しの罵言(ばげん)をはくとは……とあきれていたら、すぐさま松井一郎(まついいちろう)大阪府知事から「一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました」と擁護のツイートである。なるほど、これぞ組織風土ということらしい。
同じ過ちをくり返した組織風土もある。「過労死」の言葉を広めた25年前の男性社員の自殺−−電通事件(でんつうじけん)の当の企業でまたも入社1年目の女性社員の過労自死である。「もう4時だ 体が震えるよ… しぬ」。長時間労働に加え、パワハラめいた仕打ちの記録もあった。
「これと全く同じ状態です」とは過去の電通事件の記録を見た女性社員のつぶやきだった。公正を誓った警察官の矜(きょう)持(じ)を自ら踏みにじる風土もあれば、人の命をのみ込むしきたりを変えられない風土もある。風格だけは乏しい社会の宿命なのか。