(余録)交差点の信号が消え、鉄道のダイヤも大幅に乱れた… - 毎日新聞(2016年10月18日)

http://mainichi.jp/articles/20161018/ddm/001/070/157000c
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交差点の信号が消え、鉄道のダイヤも大幅に乱れた。埼玉県新座(にいざ)市の送電ケーブル火災による東京の大規模停電は、東日本大震災で行われた計画停電の光景と重なる。あの時、福島とのつながりを強く意識したように電力の供給地に思いをはせる。
東京電力柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発の再稼働が争点になった新潟県知事選。再稼働に慎重な姿勢を示した医師、米山隆一(よねやまりゅういち)氏が当選した。自民、公明の推薦候補が敗れたことは、原発の再稼働を進める安倍政権に衝撃を与えた。県民の重い判断である。
今から20年前のことだ。新潟県巻町(まきまち)(現新潟市)で東北電力原発建設の是非をめぐり、自治体による全国初の住民投票が実施された。町を二分する争いは建設反対が投票の6割を占め、計画は頓挫する。
住民投票の前、町長のメッセージが全世帯に配られたという。「必ず住民投票に出かけて一票を投じて下さい。巻町の将来はみんなで決めて下さい」。当時の町長が今年3月の本紙新潟版で福島第1原発事故に触れつつ振り返っている。「結果が少し違えば巻町にも原発が建っていた。福島が人ごとには思えなかった」
今回の知事選も新潟県にとどまる話ではない。自治体の住民の意思が国の政策にも影響を及ぼす。そして電力を供給される側の東京都民はどう受けとめるのか。
ケーブル火災が起きた新座市の現場は野火止(のびとめ)という珍しい地名だ。昔、野焼きの延焼を防ぐために作られた土盛りの「野火止塚」が由来ともいわれる。電力を大量に消費し、1カ所の火災の影響が野火のように瞬く間に広がる都会のもろさ。警鐘は繰り返し打ち鳴らされている気がする。