(基地と振興「リンク」)政権のたががはずれた - 沖縄タイムス(2016年8月6日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/56174
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すべては官邸と関係省庁が綿密な調整を重ねて計画を練り上げ、スケジュール通りに進められているのだろう。それにしても矢継ぎ早に繰り出される「懐柔」「脅し」「強制排除」は異常である。
これほど強権的な手法をとり続ける政権は、過去に例がない。
政府は7月22日、参院選が終わったとたん、県外から大量の機動隊を投入し、力ずくで米軍北部訓練場でのヘリパッド建設に着手した。翁長雄志知事を相手取って政府が違法確認訴訟を起こしたのも22日のことである。
翌23日には、埋め立て予定地に近い名護市の久辺3区(辺野古・豊原・久志)代表と懇談し、市を通さずに国が直接、久辺3区に補助金を交付する仕組みを次年度以降も継続する考えを明らかにした。
そして4日。今度は菅義偉官房長官鶴保庸介・沖縄担当相が「基地と振興策はリンクする」と明言し、移設作業が進まなければ沖縄振興予算の減額もありうる、との考えを示した。
市町村や経済界の動揺を誘い、県民を分断することによって知事包囲網を形成する狙いがあるのは明らかである。

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菅氏は、基地問題への対応と沖縄振興策の推進という「両方の課題を全体的に総合的に推進していく意味ではリンクしている」とあからさまにリンク論を容認してみせた。
1月に開かれた「政府・沖縄県協議会」の初会合では、振興策を基地問題とリンクさせずに進めることが確認されている。なのに今、なぜリンク論なのか。
頑として動じない翁長知事の辺野古反対の姿勢は、新基地建設計画の遅れや狂いをもたらし、米国内部からも「プランB」(代替案)が語られるようになった。公然とリンク論を持ち出すのは、政府のあせりの表れともいえる。
県は1日、国の2017年度概算要求を控え、沖縄関係予算の「3千億円台確保」や「酒税の軽減措置の延長」などの要請項目を決めている。まさにこの時期に、リンク論をぶち上げたのである。
「県が協力しなければ振興予算を削るべき」だという政府・自民党内の声は根強い。
酒税軽減措置の期限切れを控えた泡盛業界は、リンク論を持ち出されただけで「死活問題」だと震え上がるかもしれない。
だが、基地と酒税は本来、何の関係もない。酒税の軽減措置を延長するかどうかはあくまでも税制や伝統産業の育成、観光への影響の問題として論じるべきである。
沖縄振興予算にしても、本をただせば1972年の復帰の際、米軍統治下で生じた本土との各面の格差を是正するため、「償いの心」に基づいて導入されたものだ。

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復帰以来の沖縄振興制度が「基地維持装置」として機能してきたことは確かである。
過去の革新県政は基地反対の政治姿勢と振興予算の確保を両立させるのに苦労し、保守県政は基地容認の見返りに政府から振興予算をもぎ取ってきた。
仲井真弘多前知事は2013年12月、安倍晋三首相と会談し、21年度までの8年間、毎年3千億円台の予算を確保する約束を取り付けた。一括交付金を大幅に増やし、要求額を上回る予算をつけるという大盤振る舞い。その見返りが辺野古の埋め立て承認だったのである。
普天間飛行場の移設返還が決まって以降、沖縄振興予算とは別に、新基地建設とリンクしたカネが次々につぎ込まれ、効果の乏しい公共事業が進められてきた。
一括交付金が増額され、予算が消化できない事態も起きた。政府はそれをやり玉に挙げる。
なりふり構わず強権を振り回す政府のやり方が、民主政治と地方自治に照らして許される範囲を超えているのは確かである。だが、この状況を「基地と振興策はリンクしない」と批判するだけでは不十分だ。
県はもう一度、両者の関係を点検し、振興制度のどこが問題か何をどのように改めるべきかを整理し、主体的に改革に取り組むべきである。