無年金救済 多様な取り組みで - 朝日新聞(2016年8月7日)

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年金を受け取るのに必要な受給資格期間が、今の25年から10年に短縮されそうだ。無年金者の救済策として、政権が来年度中に実施する方針を示した。
今は保険料を納めた期間が25年に満たないと年金を受け取れないが、そうした人のうち約64万人が新たに年金をもらえるようになると見込まれている。高齢になっても働き続ける必要に迫られるなど、厳しい生活を送る無年金の人には朗報だ。
ただ、年に約650億円が必要になる。安定した財源が確保できているとは言いがたい。
受給資格期間の短縮は税・社会保障一体改革に盛り込まれた社会保障の充実策で、10%への消費増税に合わせてもともとは昨年10月に実施予定だった。増税先送りで実現が不透明になるなか、先の参院選で自民、公明両党が早期の実施を約束していた。いわば見切り発車である。
政権は、消費税率を10%にするまでの当面の財源をやりくりすれば乗り切れると考えているようだが、19年10月に消費増税が必ず実施されると本当に言えるのか。
増税から逃げ腰のまま財源が続かなくなり、他の社会保障予算を削って捻出するようなことになれば本末転倒だ。関連法案の審議が予定される秋の臨時国会でしっかり議論してほしい。
忘れてならないのは、受給資格期間の短縮は、すべての問題を解決してくれる「特効薬」ではないということだ。
例えば年金額の問題がある。国民年金は20歳から60歳まで保険料を納めると毎月6万5千円程度の年金がもらえるが、納付期間が10年にとどまれば年金額もその4分の1になる。
「10年間保険料を納めれば年金がもらえる」ことばかりが強調され、10年で保険料納付をやめてしまう人が相次ぐようでは、低年金で生活保護に頼らざるを得なくなる人がむしろ増えかねない。
受給資格期間が短くなっても、老後に十分な年金をもらうには長期的に保険料を納める必要があることを周知する。未納者には納付をはたらきかける。そんな取り組みも重要だ。
生活が苦しく保険料を納められない人には保険料を免除・猶予する制度の利用を促したい。免除や猶予の期間は受給資格期間に数えられる。一定の条件はあるが、経済的に余裕ができてから免除・猶予期間の保険料を納めて年金額を増やすこともできる。
さまざまな制度をフルに活用し、重層的な取り組みを通じて老後の安心を守りたい。