地位協定 本土の人は肌で感じられない 沖縄知事インタビュー詳報 - 東京新聞(2016年6月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201606/CK2016061802000124.html
http://megalodon.jp/2016-0618-1105-11/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201606/CK2016061802000124.html

沖縄県翁長雄志(おながたけし)知事は共同通信の単独インタビューに対し、米軍属が逮捕された女性暴行殺害事件に抗議する十九日の「県民大会」で、在日米軍の法的地位を定める日米地位協定の抜本改定を訴える意向を表明した。十六日に行われたインタビューの詳報は次の通り。

−「県民大会」で「本土」に向けどういうメッセージを訴えたいか。
「二十歳の娘さんが殺されるという悲惨なことになった。沖縄の置かれている状況で、なかなか本土の方々が肌で感じることができない一番大きなものが日米地位協定だ。二十年近く前から時の知事を先頭に改定を訴えてきた」
「(日本の)0・6%の面積に在日米軍専用施設の74・46%がある沖縄では地位協定のはざまで苦しんでいる。本土の人は日常的に自分たちの目の前に基地が現れないので、地位協定がいかに不平等条約かについて理解が全くない。真実を伝えたい」
「日本の安全保障というのは日本全体で考えてほしい。沖縄だけに基地を押しつけて『中国は怖くないのか』というのは、大変エゴイスト的に感じられる。日本国民全体で考えないことには本気度が伝わらない」

−一九九五年の少女暴行事件を受けた県民総決起大会では基地の整理縮小が決議されたが、今回は海兵隊の撤退を求めている。この間で何が変わったか。
「二十一年前は小学生が被害に遭って、怒りは保革を乗り越えた。怒りを表現することに主眼があり、それを本土の方々も受け継いでくれるのではないかとの期待があった」
「それから約二十年、いろいろな事件が起き、やはり基地の整理縮小という言葉だけで県民の心を収めるのが難しくなってきた。政府は『県民に寄り添う』と言うが、基地の負担軽減は進まず、地位協定の改定はほとんど手つかずの中、また事件が起きた。政治がそこまで言わなければ、県民の心の整理がつかない。今回、表現が『整理縮小』から『海兵隊の撤退』に変わったのは、県民全体がトーンを上げてきた部分がある」

海兵隊撤退を求めることで日米安全保障体制への影響は。
日米安保体制は、沖縄を含めて日本全国で平等であることが重要だ。基地を押しつけておいて、もし明日、同じ事件が起きたらどうなるか。(反基地感情が向けられるのは)普天間どころではなく、米軍基地全体になる。日米安保体制が吹き飛ぶという、誰もが予見もできない中に置かれている。砂上の楼閣だ」

−安倍政権との相互理解が深まらない。
「今回の事件を受けて安倍晋三首相と話をしたが、日本政府から気概を感じない。沖縄は米施政権下にあったが、今は国が丸ごと米国の施政権下にあるのではないかという寂しさや悲しさを感じる」

−知事は先の日米首脳会談で地位協定改定を求めるよう首相に要請した。会談内容の説明はあったか。
「全くない。(抗議しなければ)政局を乗り切れないという意味合いで(大統領に)抗議したのではないかと思うぐらいだ」

−今回の県民大会は自民、公明両党の県組織が参加しない形となった。出席を決めた思いは。
「十万人単位の集会を数年に一回開催しても、政府が耳を貸すような状況が全くない。県民大会は当然、日本政府に訴えるのだが、むしろ沖縄県民の思いをどのように表すかが大切だ」
「主催者の『オール沖縄会議』は(最初は)海兵隊の『全面撤退』だったと思うが、『撤退』に変わった。(大会名に含まれる)『海兵隊撤退』は、基地の整理縮小や米軍普天間飛行場の県外移設、辺野古新基地を造らせないことなど、沖縄の基地問題に関するいろんな政党の考えが集約されている。知事としての公約と就任後一年半の政治行動からすると、これに参加するのは、ある意味で当然だ。参加しないという間違ったシグナルを送ると大変なことになる」

−知事は「イデオロギーよりアイデンティティー」と言ってきた。それは変わらないか。
イデオロギーでは沖縄県民だけではなく日本全体の問題になる。冷戦構造の名残を背景にして沖縄問題を捉えると、日本全体で覆われているものに入ってしまい、沖縄という視点がなくなる」
イデオロギーよりアイデンティティーというのは、もう保守とか革新とかやめてほしいと(いうことだ)。沖縄県民はある政党が一議席減ろうが、喜びも悲しみもしない。沖縄県から基地がなくなり、平和を子や孫に残せるかどうかを望んでいるのであり、『今回の選挙はこっちが勝ったぞ』というのは聞き飽きたというものがある」
「まずは県民が結束することが大切だ。本土の方々がどこまで理解していただけるかということよりも、県民が結束し、心を一つにして今の状況を乗り越え、打破していくのがとても大切ではないか」
「私たちが主体的に自分たちの自己決定権を持っていることが、日本を変えるのではないか。沖縄の問題を解決すれば、日本が民主主義国家として変わる。地方自治を尊重する国として変わっていく。地方分権という意味でも変わる」
「自分の国でそれができないような、自分の意思を持っていないような国が、アジアのリーダーだとか、世界のリーダーだとか、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を開催するというのは、私にはお笑いの世界にしか見えない」
「それでも今の政権を握っているのは自民党なので、沖縄側から厳しくチェックせざるを得ない」

−民主主義を徹底させていくということか。
「民主主義をどう共有できるかという難しさを感じるが、沖縄問題の解決こそが日本という国を本当の意味での民主主義国家、自分の意思を持つ国に変えていくことだろうと思っている」

−県民大会後、改めて訪米する考えはあるか。
「訪米する予算は確保している。(先に訪米した際に面会した)モンデール元駐日米大使は『本土の米軍基地は全部日本軍の基地を米軍が使っている。沖縄の基地は全部米軍が強制接収をして無理やり基地にした。この問題は米軍、米国が責任を持って考える必要がある』と話されたのが一番象徴的だった」
「去年の訪米では『辺野古が唯一』と言っていた人が、今年の訪米では『唯一』と全く言わないで、私の話に耳を傾けてくれた。少しずつ糸がほぐれるとの思いがした。そこに訪米の意味がある」
「時期は言えないが、これからも日本政府や国民に加え、米国に対して(沖縄の民意を)伝えていきたい」

−日米両政府は、日米地位協定が定めた軍属の範囲を明確化する方向で議論している。
「当然不十分だ。それだけで三、四年かかり、一歩進めるためにはさらに五、六年がかかる。その間にまた暴行事件が起きるかもしれない」

基地外での事件・事故については、米軍関係者も日本の司法制度で裁けるようにするべきか。
「基本的にそうあるべきだ。県民の尊厳がかかっている。そうならなければ、将来の日本はアジアや世界のリーダーにはなれない」