元少年に死刑 厳粛に受け止めつつ - 東京新聞(2016年6月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016061702000137.html
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犯行時十八歳の被告の死刑が確定する。宮城県石巻市で元交際相手の姉ら二人を殺害、一人に重傷を負わせた事件だった。最高裁の判断で、年齢は極刑回避の決定的事情にならない流れが浮き出た。

<十八歳に満たない者に対しては、死刑をもって処断すべきときは、無期刑を科する>
少年法はそう定めている。被告は事件当時、十八歳七カ月だった。七カ月の差で死刑と無期刑が分かれる。この年齢の問題をどう考えるかが焦点の一つだった。未熟さなどが犯行の背景にある場合、死刑の選択には慎重であるべきだという考え方に基づく。
被害者人数が二人の場合、名古屋アベック殺人(一九八八年)では、当時十九歳の少年は無期懲役だった。山口・光市母子殺害(九九年)では、当時十八歳の少年が受けた無期懲役判決を最高裁が破棄し、死刑が確定した経緯がある。
今回の石巻の事件は、裁判員裁判で少年に初めて死刑が言い渡されたケースだった。一般市民らが下した重たい判断を高裁、最高裁が支持したことは厳粛に受け止めねばなるまい。
二人殺害という結果の重大性を重くみた。二〇〇〇年に少年法が改正されるなど、少年犯罪に対しては厳罰化が進められてきた。そのことと本来、少年の保護育成をうたう少年法の理念をどう両立させるかは大きな課題である。
とくに同法の適用年齢を十八歳未満に引き下げる案が浮かんでいる。選挙権年齢を十八歳以上としたのに合わせる狙いだ。慎重に考えるべき問題である。
現在、少年事件はすべて家庭裁判所が調査をする定めだ。調査官による面接調査などがある。少年鑑別所において心理学、教育学、社会学など専門領域から鑑別調査も行われる。非行の原因を探り、背景を解明し、その少年にとって最適な処遇方法を考えるのだ。
もし適用年齢が引き下げられると、少年被疑者の約40%がこの少年司法手続きから排除されてしまう。たんに刑事手続きによる処分だけで終わり、非行の原因や背景を突き止めることはなされない。大切な更生の処方箋は示されないことになってしまう。
少年犯罪は生まれ育った不遇な環境などが深く結びついているケースが多い。そのため、性格の矯正や環境の調整を追求する。それが少年法の目的でもある。同法の問題は広い視野をもって、市民一人一人が考えたい。